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ウィルム/ワーム

[イギリスの伝承]
 Wyrm(ウィルム)【古英語】 Worm(ワーム)【英語】
〔Orm(オルム)【古ノルド語】,Vurm(ヴルム)【ドイツ語】〕

手や足、翼のないヘビのような形をしたドラゴン。水辺に棲み、毒の息を吐き、周辺の田畑を荒らす。乙女をさらって喰らう。斬られても元通りにくっついてしまう。大抵は英雄譚の敵役として退治される。後代には手や足、翼をはやすものと想像されるようになり、ドラゴンと同一視されるようになった。

元祖ドラゴン、手足のない大蛇の怪物?!

ウィルム(ワーム)は足も翼も持たないドラゴンのことを指す。イギリスなど、北ヨーロッパの古い伝承には、しばしば、巨大なヘビのような細長い姿をした怪物が登場する。ヌルヌルした身体を持ち、口からは毒の息を吐き、身体を切られてもすぐに元通りにくっついてしまう。長い身体で人間に巻きついて絞め殺す。このヘビのような怪物こそがウィルムで、北ヨーロッパ一帯に広く伝わっている。井戸や泉、あるいは沼地、湿地などの水のある場所を好み、人間、特に乙女をさらって喰ってしまう。稀に海に棲むウィルムや、口から火を吐くウィルムもいるが、基本は同じで、周辺を荒らしまわって英雄に退治される敵役として登場する。

ウィルムは時代が下るにつれて、足や翼があると考えられるようになり、やがてドラゴンと同一視されるにいたる。イギリスの伝承には、足が12本もあるウィルムまで登場する。けれども、もともとのドラゴンは「ヘビ」から派生したものなのだ。北欧神話に登場するヨルムンガンドは世界を取り囲む巨大なヘビの怪物で、悪竜ニーズホッグも翼を生やしたヘビのような怪物。『ベーオウルフ』に登場する竜も、おそらくは翼を生やしたヘビの怪物だったのだと思う。ドラゴンの語源になったギリシアのドラコーンも原義は《ヘビ》で、ピュートーンラードーンヒュドラーなど、昔のドラゴンのほとんどは巨大な大蛇の怪物だ。やがてヘビの怪物ドラゴンは、ウィルムのような翼も足もない怪物から、次第に翼を生やしたものや、四肢があるものへと進化していったものと思われる。

ウィルムという英単語は、本来、手足のない細長い生き物を指す言葉で、現代では、ヘビのような生き物から、芋虫やミミズのような虫までも含めてウィルムと言う。北欧でドラゴンを意味する言葉から派生したもので、worm(ワーム)、orm(オルム)、vurm(ヴルム)などと変形しているが、1000年以上前、ヴァイキングに侵略されたヨーロッパの北部と東部に分布している。原義からすると、足のある怪物をウィルム(ワーム)と呼ぶのは少し違うのかもしれないが、中世の騎士物語では、すでにウィルムとドラゴンは同じものを指す言葉として定着していたようだ。

ちなみに「マジック・ザ・ギャザリング」というアメリカのウィザード社のカードゲームでは、この手の怪物に「Wurm」という表記が用いられている。これで、虫のワーム(Worm)とドラゴンのワーム(Wurm)を区別しているわけだ。

イギリスのウィルムの代表格、ラムトンのワーム

イギリスの代表的なウィルムにラムトン・ワーム(Lambton Worm)がいる。これはイモリやトカゲのような四足の怪物だといわれることもある。この話が語られる十字軍の時代には、すでにドラゴンとウィルムは同義語になっていたようだ。

ラムトン家の放蕩者の跡取り息子が罰当たりにも安息日の日曜日に城の近くのウィアー川で釣りをしていると、このウィルムが針にかかった。彼は恐ろしくなって、ウィルムを近くの井戸に投げこんでしまう。やがてラムトン・ワームは井戸の中でぐんぐん成長し、巨大な怪物になって付近一帯を荒らしまわるようになる。毒の息を吐き、2つに切られてもまたつながるという典型的なウィルムの特徴をしっかりと備えている。

彼は責任を感じてウィルムを倒す決意をし、物知りの老婆(魔女)に助言を求める。彼女の助言に従って、彼は丈夫な鎧を鍛冶屋に持っていくと、鋭い釘を一面に植えてもらう。これでウィルムが巻きついて絞め殺そうとすればするほど、ウィルムを傷つけることができる。そして老婆の助言どおりに急流の真ん中でウィルムを待ち受けた。そのため、切断した足はくっつくよりも前にどんどん下流に流されてしまう。こうしてラムトン・ワームは退治された。

ヨークシャに伝わる「ローシーが丘のドラゴン」もウィルム系ドラゴンで、切られてもつながる性質を持っている。主人公の犬が切断した部分をくわえて遠くに持っていったおかげで退治することができたという。しかし、この怪物が吐く有毒のガスで主人公も犬も死んでしまう。これも典型的なウィルムの一例といえるだろう。

稀に手足のないドラゴンのことを指して「ワイアーム」という怪物がゲームや小説などに登場することがある。これは「wyrm(ウィルム)」を誤って「ワイアーム」読んだものが一般に流布したものである。もちろん、古英語の「wyrm」は「ワイアーム」とは読まない。

《参考文献》