ニーズホッグ

[北欧神話]
 Níðhǫggr(ニーズホッグ)《嘲笑う打撃者》【古代ノルド語】

北欧神話に登場する飛竜。冥府ニヴルヘイムにあるフヴェルゲルミルという泉で世界樹ユッグドラシルの根を齧って世界を脅かし続けている。ラグナロクのときには翼に死体をのせて空を舞う。

世界樹の根を齧る悪竜

ニーズホッグは北欧神話に登場する飛竜だ。死者の国ニヴルヘイムにはフヴェルゲルミルという泉があって、ニーズホッグはそこで無数の蛇たちとともに暮らしている。その泉には世界樹ユッグドラシルの根が伸びていて、ニーズホッグは蛇たちとともにこの根を齧って世界を脅かし続けているのだ。

Askr Yggdrasils / drýgir erfiði
meira en menn um viti: / hjǫrtr bítr ofan,
en á hliðu fúnar, / skerðir Niðhǫggr neðan.

トネリコの樹ユッグドラシルは / 苦労を舐めている
人間が知っているより多くの(苦労を)。 / 上からは牡鹿が噛んでいて、
わき腹は腐っていて、 / 下からはニーズホッグが噛んでいるのだ。

『Grímnismál』第35段より

フヴェルゲルミルには人間の死体も浮かんでいるようで、ニーズホッグはこれらの死体の血も啜るらしい。人間は死後、いろいろな場所に行くことになるようだ。天にあるギムレーやブリミルという館、そしてシンドリと呼ばれる館などは善良な人間が行く場所とされている。偽りを述べた人間や人殺しなどはナーストレンド(死者の岸)にある館に運ばれ、そこで毒の川を渡ることになる。けれども、もっとも最悪なのはフヴェルゲルミルという泉で、そこではニーズホッグが死者たちを責め苛むのだという。

Sá hon þar vaða / þunga strauma
menn meinsvara / ok morðvarga
ok þann er annars glepr / eyrarúnu;
þar saug Niðhǫggr / nái framgengna,
sleit vargr vera. / Vituð ér enn - eða hvat?

人々があの浅瀬を渡る / 重たい流れを
偽りを述べた人や / 人殺し
ほかの人の妻を / 誘惑した人が。
そこでニーズホッグは啜る / 死に去った死者(の血)を、
狼は男たちを引き裂いた。 / お分かりか?

(『Vǫluspá』第39段より)

翼を持った蛇の姿をしていて、『巫女の予言(Vǫluspá)』では「黒い飛竜」と表現されている。ラグナロクのときには地上に出現し、翼に死体をのせて空を飛び回るという。

Þar kemr inn dimmi / dreki fljúgandi,
naðr fránn, neðan / frá Niðafjǫllum;
berr sér í fjǫðrum, / flýgr vǫll yfir,
Niðhǫggr nái. / Nú mun hon søkkvask.

ここからやってくるのだ、黒い / 飛竜、
目を煌めかせた蛇が、下の / ニザフィヨル(冥府)から。
翼に(死者を)のせて運び / 野原の上を飛ぶ、
ニーズホッグが死者を(のせて)。 / やがてそれは沈むだろう

(『Vǫluspá』第66段より)

ニーズホッグは普段、フレースヴェルグと呼ばれる大鷲とケンカをしているという。フレースヴェルグはユッグドラシルのてっぺんで風を起こしている。一方のニーズホッグは根本で根を齧っているわけだが、その間を中継をするのがリスのラタトスクで、お互いの言葉を伝達するのだという。

Ratatoskr heitir íkorni, / er renna skal
at aski Yggdrasils, / arnar orð
hann skal ofan bera / ok segja Niðhǫggvi niðr.

リスはラタトスクと呼ばれていて、 / 走らなければならない
トネリコの樹ユッグドラシルを、 / ワシの言葉を
彼は上から運んで / 下のニーズホッグに伝えなければならないのだ。

『Grímnismál』第32段より

《参考文献》