山童(ヤマワロ)

[日本の妖怪]
 山童(ヤマワロ),ヤマワラワ,ヤマワランベ

特に九州地方に多く伝わる山に棲む河童の一種。冬の間は深い山奥で山童として暮らすが、春の彼岸の頃になると川に戻ってきて河童になる。山仕事を手伝ったり、悪戯をしたりする。

川では河童、山では山童!?

山童(ヤマワロ)は山中に棲むとされる妖怪で、尾根伝いに山と川とを行き来する。河童(カッパ)の一種で、河童が山に入ったものが山童であるといい、特に九州地方を中心に広く分布している。冬の間は山に棲んでいて山童と呼ばれているが、夏になると河童になって川に棲むと九州地方では信じられていたようだ。春の彼岸の前後の雨の日、真夜中になると集団で山から川へと移動する。熊本県では河童のことをガラッパというが、山童は春の彼岸になると山から川へ移動してガラッパになり、今度は秋の彼岸になると川から山に帰ってきて山童になるのだという。葦北郡佐敷町(葦北町)では、彼岸の頃になると、何千匹という山童が列をつくって尾根伝いに山から下りてくるヒョーヒョーといった鳴き声が聞こえてくるという。そんな日に山童を見ようなどと思ってはいけない。というのも、そんなことをすれば必ず病気になったり悪いことが起こるといわれていた。昔は彼岸の日はお籠もりをして外出しないものだったのである。山童が移動する通路は決まっていて、この通路のことを「オサキ」と呼んだ。オサキに家を建てると、その家には穴が開けられてしまうという。

妖怪セコ:
宮崎県西米良にはセコという山の妖怪がいて、これは一日サイクルで山と川を行き来する。夕方になると川から山に入り、明け方に山から川に帰ってくるという。

山仕事を手伝う山童

山童は深い山の中に棲んでいる。1メートルくらいの子供のような姿をしていて、全身、サルのように細かい毛が生えている。胴体は短く、足は長いという。たくさんの呼び名があって、山童(ヤマワロ)以外にも、ヤマワラワ、ヤマワランベ、ヤマガロ、ヤマオロ、ヤマンタロウ、ワロドンオジドン、ヤマセコ、カリコボなど、九州地方にはたくさんの山童の仲間がいる。

山童はしばしば伐採した樹木を運んでくれるなど、樵たちの山仕事を手伝ってくれる。葦北郡などでは、山童のことを「山の若い衆」などと呼んで、山仕事が1日で終わりそうにないときには、老人たちは「山の若い衆にでも頼むか」などと言っていたようだ。しかし、山童にはいくつかのクセがある。たとえば運んだ木を一緒に地面に下ろすときに、掛け声を「1、2、3」などと悠長に3まで数えていてはダメで、2の掛け声とともに木を下ろさなければならない。というのも、山童が支えている肩を早く外してしまうからである。また、人の先に立つことを嫌うため、山童と作業をするときには、山童が後ろに来るようにしなければならない。また、山仕事を手伝ってくれたときにお礼を与えると何度も手伝ってくれるようになる。お礼の品は酒でも魚でも握り飯でもいいのだが、しかし、最初に約束したものと同じでなければならないという決まりがあるようだ。約束した数より少ない場合はもちろん、多くても山童は怒ってしまう。また、仕事の前に食べ物などを与えてしまうのもダメで、そんなことをすると、食べ物を食べるだけ食べたら、働く前に逃げ出してしまう。また、塩分を嫌うらしい。

山童は河童と同様に相撲が大好きなようだ。また、牛や馬に悪戯をすることもある。この辺は河童の特徴ともいえる。歌がうまいという話もある。また、しばしば悪戯をするようで、人の弁当を盗んだり、家に忍び込んで勝手に風呂を使うなどの悪さもするなど、さまざまな山童の伝承が残っている。

また、山童を攻撃しようとか、殺してやろうなどと考えると、それを察して祟りをなすという。発狂したり病にかかったり、果ては家が出火するというので、山童には手出ししてはいけないとされた。この山童のこちらの攻撃の意思を汲み取るという能力は、同じく山の妖怪である覚(サトリ)の能力に似ているようだ。何らかの影響があるのかもしれない。

《参考文献》