夜行さん(ヤギョウサン)
[日本の妖怪]
夜行さん〔yagyôsan〕(ヤギョウサン)【日本語】
ヤギョー(高知県)
徳島の妖怪。大晦日や節分の夜に出現。一つ目の鬼。首なし馬にまたがって徘徊する。夜行さんに蹴っ飛ばされて殺されないように、草履を頭の上に載せて地面に伏せなければならない。
■ 首なし馬にまたがった一つ目鬼
夜行さんは徳島県の妖怪。大晦日の夜とか節分の夜に出現する。庚申の夜や夜行の日にもやってくるという1)。一つ目の鬼で、顔も身体も毛むくじゃらだという。首のない馬に乗って、あちこちをうろうろする。もし、運悪く夜行さんに出会うと蹴飛ばされて殺される。けれども、草履を頭の上に載せて地面に伏せれば何もされないという。三好郡山城谷村政友(山城町)では、節分の夜になると、片目であごひげのはえた夜行さんという鬼がやってくるというが、もし、この日の夜におかずの話をしていると、家の中に毛むくじゃらの手を差し入れてくるという。高知県高岡郡越知町野老山の周辺では「ヤギョー」と呼んでいるらしい。姿については不明だが、錫杖をジャンコジャンコ鳴らして夜の山道を歩きまわるのだ。
夜行さんと首切れ馬というのは必ずしもセットというわけではないらしい。村上健司によれば、逆に首切れ馬だけが現れる伝承の方が多いという。徳島県吉野川の下流地方から香川県東部にかけての地域では首切れ馬のことを夜行さんと呼んで、節分の夜に現れると言っているらしい。徳島県祖谷地方の首切れ馬も、大晦日や節分の晩に現れるといい、四ツ辻に行けばその姿を見ることができるという。このような首切れ馬の伝承は日本各地に広く分布している。
多田克己は鬼をいくつかに分類しているが、夜行さんを「あの世からこの世に訪問して来る鬼(先祖の霊)」にカテゴライズしている。もともと、鬼というのは中国の鬼(グイ)に起源をもっていて、死者の霊のことである。そのため、盂蘭盆などには戻ってくる。古来、鬼のいるところは死者の国と通じている場所だったらしい。夜行さんが特定の日にやってきて村をあちこちうろうろするのは、その名残りなのかもしれない。中国では死者に食べ物などをしっかり供えてやらないと、鬼がやってきて食べ物をねだるともいう。死後も鬼は食べ物を必要とするのだ。おかずの話をしていると夜行さんが手を差し入れておかずを欲しがるという伝承も、もしかしたらそんな背景があるのかもしれない。
1) 『拾芥抄』によれば百鬼夜行の出現する日は決まっているといい、正月、2月子日、3月・4月午日、5月・6月巳日、7月・8月戌日、9月・10月未日、11月・12月辰日が百鬼夜行日らしい。ここでいう夜行の日もこれらの日のことだろう。これらの日になると、妖怪が群れをなして歩き回るという。
《参考文献》
- 『日本妖怪大事典』(画:水木しげる,編著:村上健司,角川書店,2005年)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Truth In Fantasy 9 幻想世界の住人たちⅣ <日本編>』(著:多田克己,新紀元社,1990年)