ヴイーヴル

[フランス伝承]
 Vouivre(ヴイーヴル)【フランス語】

フランス伝承に登場する翼をはやした大蛇。目が真紅に輝く宝石でできていて、この目を狙って多くの人がヴイーヴルを求めた。やがて後代にはコウモリの翼、鷲の脚、毒蛇の尻尾を持つ妖艶な女精霊になった。この場合も額にガーネットをつけていて、この宝石を手に入れた者はヴイーヴルに言うことをきかせられたという。

真紅の瞳を輝かせたフランスの竜

ヴイーヴルはフランス伝承に登場するドラゴンの一種で、ラテン語で《マムシ》を意味するVipera(ウィペラ)を語源としているという。その名が示す通り、巨大な蛇の姿をしているが、背中にはコウモリのような翼を持っていて、空を自在に飛べるという。何故か雌しか存在しないらしい。ヴイーヴルの棲みついた場所は、植物や動物が豊かに育つとも言われ、大地の恵みを司る竜として、崇拝するようなこともあったとされている。

普段は真っ暗な地底に棲んでいるが、ときには地上に出てきて人を襲って喰らうこともあった。深い山や城跡などに棲みつくこともあったようだ。目がルビーやガーネットなどの真紅に輝く宝石でできているようで、真っ暗な地底でも、目から光を発して自由に飛び回ることができたという。そのため、多くの盗賊たちがこの目を狙って、逆に襲われたという。ところが、ヴイーヴルは、川などで水を飲むとき、宝石が濡れてしまわないように、目を取り外して岸辺に置いておく習慣があり、盗賊たちはこの瞬間を狙ってヴイーヴルの目玉を盗ろうとしたという。このときに目玉を盗まれてしまうと盲目になってしまうため、ヴイーヴルは盗賊を追いかけることができず、盗賊たちはうまく逃げおおせることができた。

美しい精霊になったヴイーヴル?!

有翼の蛇だったヴイーヴルは、やがて、いつの頃からか、洞窟に財宝を隠し持つ妖艶な女性の精霊へと変化していく。理由は分からないが、ヴイーヴルが女性であること、また、大地母神として崇拝されていたことに関係があるのかもしれない。女精霊のヴイーヴルはメリジューヌという怪物の姉妹として森の奥深くに棲んでいるとされる。その姿はコウモリの翼と鷲の脚を持ち、長い毒蛇の尻尾を持った妖精である。額には小さな割れ目があって、そこにガーネットがはまっていた。このガーネットを手に入れると、色々な魔法を仕えるようになるとか、幸運を呼ぶなどと言われていたため、やはり多くの人がこの宝石を狙っていたという。何よりも、もしこのガーネットを盗られてしまったら、ヴイーヴルはその人間の言うことを聞かなければならなかったのである。だから、ヴイーヴルはこの宝石が盗まれたりしないように、他の財宝と一緒に洞窟の奥底に隠しておき、ぴったりと洞窟には蓋をしていたという。けれども、この洞窟の蓋は復活祭の日曜日になると自然に開くといわれていて、この機会を狙ってたくさんの人が洞窟を探したという。

あるとき、ヴイーヴルの額の宝石を手に入れた男がいた。男はヴイーヴルを妻に娶り、2人の間には子供までうまれたといわれている。けれども、ヴイーヴルは宝石を取り返すと、再び森へ戻ってしまい、二度と戻ってこなかったという伝承が残っている。日本の天女の羽衣にしても、北欧のヴァルキュリャの白鳥の羽衣にしても、あるいはイギリスのアザラシ乙女のアザラシの着ぐるみにしても、宝物を取り返されてしまうと、女性は元の世界に戻ってしまうものらしい。

また、ある母親が復活祭の日曜日に子供を連れて森へ遊びに行った際に、偶然、ヴイーヴルの洞窟を発見した話がある。母親は財宝を取り出すのに一生懸命になってしまい、気がついたときには子供を中に残したまま、洞窟の入り口はふさがってしまったという。1年後、再び復活祭になって母親が洞窟へ入ると、すでに洞窟はもぬけのからになっていたという。

イギリスではワイヴァーンに?

ヴイーヴルは脚がないとされているが、描かれるときには2本の脚をつけ加えられることもあったようで、一説では、フランスのヴイーヴル(Vouivre)がイギリスに渡って変化し、ワイヴァーン(Wyvern)の語源になったという。

《参考文献》