カー

[エジプト神話]
 𔁭〔kȝ〕(カー)《魂》【古代エジプト語】
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古代エジプトの「魂」の1つで、生命力の象徴。人間がうまれたときから傍らに一緒に存在する。死後、もう1つの「魂」であるバーと一体化し、祝福された魂であるアクになる。カーは死後も食事の必要があり、死者に食べ物が供えられるのはそのため。これが途切れるとカーは消滅する。

人間の生命力の象徴として崇拝された「魂」

カーは古代エジプトの「魂」のようなもの。どうも古代エジプト人は人間を5つの要素から構成されていると考えていたようだ。それが肉体、バー、カー、名前、そして影である。このバーとカーはどちらも日本語では「魂」と訳されるが、一言で説明するのはなかなか難しい。バーは私たちが通常考える「魂」に比較的近く、死後、肉体から離れて飛び回る。その人の「人格」のようなものだ。一方のカーは生まれたときから人間に備わっているものと考えられていたようで、いわば、人間の活力、生命力の象徴のようなものと考えるとイメージしやすいのかもしれない。チェルニーはアラン・ガーディナー卿の言葉を引いて、個人と独立した存在であるという解釈が妥当だとしている。つまり、常に個人の傍らにいて、人間の活力や生命力を象徴している。そんなイメージの「魂」である。

死後、このバーとカー、2つの「魂」が一体化することで、魂はアクと呼ばれるものになる。こうなると祝福された魂として、イアル野と呼ばれる楽園で永遠に暮らすことができるのだという。そのため、この2つの「魂」がスムースに合体できるように、古代エジプト人はさまざまな儀式を執り行なった。

カーはその存在を維持するために、常に食事を必要としたらしい。それは宿る肉体が死んだ後も変わらない。だから、死後も、カーは食べたり飲んだりする必要があるとされた。古代エジプト人が死者に対して食べ物を供えたり、食べ物の絵が捧げられたりするのはこのためで、この供え物が途切れるとカーは消滅してしまう。もし、万が一、魂がアクになる前にカーが消滅してしまうようなことになれば、人々は「あの世」で永遠に生きられなくなってしまうのだから、事態は深刻だ。「カーの召し使い」と呼ばれる墓守が、そうならないようにせっせと食べ物を運んだわけだ。

カーは、人間の傍らに立つ小さな像として表現されたが、その像の頭上には「肘を曲げて差し挙げている両腕」を載せている。カーのヒエログリフと同じ形のものだ。おそらく、これがカーの姿なのだろう。創造神クヌムが人間をつくる際に一緒につくったとされている。

《参考文献》