バー

[エジプト神話]
 𔄡𔄉〔bȝ〕(バー)《魂》【古代エジプト語】
 ※ エジプト・ヒエログリフの表示にはAegyptus Fontが必要です

古代エジプト人の考えた死後の魂。人間の頭を持つワシの姿をしている。死後、どこからか飛んできて魂を引き受けて空高く舞い上がる。

人間の頭を持ったワシの姿をした魂

バーは古代エジプト人が考えた死後の「魂」のようなもの。古代エジプト人は人間を5つの要素から構成されていると考えていたようだ。それが肉体、バー、カー、名前、そして影である。このバーとカーはどちらも日本語では「魂」と訳されるが、一言で説明するのはなかなか難しい。カーは生まれたときから人間に備わっているもので、いわば人間の活力、生命力の象徴のようなもの。個人とは独立した存在と解釈できるような「魂」である。一方のバーは、姿こそ生前の人間の頭を持つワシの姿で想像されたものの、日本人の考えるような「魂」に少しは近いかもしれない。人間の死の瞬間、バーは人間の身体を離れ、魂を引き受けて空高く舞い上がるという。いわば、その人の「人格」のようなものだ。自由になったバーは自らが望むどんな姿もとれたという。

死後、このバーとカー、2つの「魂」が一体化することで、魂はアクと呼ばれるものに昇華する。こうなると死者の魂は祝福された魂として、イアル野と呼ばれる楽園で永遠に暮らすことができるのだという。そのため、この2つの「魂」がスムースに合体できるように、古代エジプト人はさまざまな儀式を執り行なった。

人間の肉体はバーの安息の場所として死後も重要なもので、バーは休息のために肉体に戻ってくる必要があったという。そのため、古代エジプトでは人間の死体は伝統的な葬儀によってミイラ化しなければならなかった。

神々にもバーがある?

バーもカーも人間だけではなく神々にも備わっているものだったようだ。「オシリスのバー」とか「ラアのバー」という表現がそれを示している。太陽神ラアは夜になると「ラアのバー」として冥界を航海する。そのときのラアは雄羊の姿をとるとされた。古代エジプトでは雄羊は𔇬𔂝と書いてバー〔bȝ〕と発音された。「魂」のバーと同じ発音だったために同一視されるようになったのだ。また、聖牛アパスは冥界神オシリスのバーとされ、エジプトで崇拝された。

《参考文献》