エリーニュス
[ギリシア・ローマ神話]
Ἐρινύς〔Erīnys〕(エリーニュス) pl. Ἐρινύες〔Erīnyes〕(エリーニュエス)【古典ギリシア語】
Furia(フリア),Dīra(ディーラ) pl. Furiae(フリアイ),Dīrae(ディーライ)【ラテン語】
親殺しの罪を糾弾する復讐の女神たち
エリーニュスたちはギリシア・ローマ神話に登場する復讐の女神たち。殺人を犯した者、特に肉親を殺した者を糾弾し、どこまでも追跡してその罪を追求する。宣誓に背いた者も、彼女たちによって糾弾される。初期は人数が定まっていなかったが、次第にアーレークトー、ティーシポネー、メガイラの三人の女神とされるようになった。クロノスが天空神ウーラノスの生殖器を斬り落としたときに、その傷口からほとばしった血がガイア(大地)に滴ってうまれたとされる。彼女たちと一緒にトネリコの精霊メリアたちと巨人族ギガースたちがうまれている。
エリーニュスたちは背中に翼をはやし、頭髪の中から蛇が数匹、顔を覗かせている。手には篝火を持ち、罪人たちをどこまでもどこまでも追い続けるという。母の死の原因をつくったオイディプース王をいじめ殺したり、母殺しのアルクマイオーンやオレステースなどを執拗に追求して気を狂わせたりしている。
エリーニュスたちは非常に怖ろしい女神であったため、古代ギリシア人たちは直接、彼女の名前を呼ぶことを憚って、Εὐμενίς(エウメニス)《善意の女,好意の女》〔pl. Εὐμενίδες(エウメニデス)〕と呼んだ。
彼女たちの住居は奈落の底タルタロスにあって、彼女たちには黒い羊とネーパリアと呼ばれる水と蜜、ミルクを混ぜたものが捧げられたという。冥界と大地とは古くから関係があったらしく、デーメーテール・エリーニュスという呼び名で、多産豊饒をもたらす存在として表現されることもあった。この場合、怖ろしい女神ではなく、非常に好意的な女神として描かれることが多い。
古代ローマではFuria(フリア)、またはDira(ディーラ)などと呼ばれた。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『ギリシア・ローマ神話辞典』(著:高津春繁,岩波書店,1960年)