メリア

[ギリシア・ローマ神話]
 Μελία(メリア) pl. Μελίαι(メリアイ)《トネリコ》【古典ギリシア語】

槍の柄の材料、トネリコの精霊

メリアはギリシア・ローマ神話に登場するトネリコの樹のニュムペー(精霊)だ。ヘーシオドスの『神統記(テオゴニアー)』によれば、クロノスが天空神ウーラノスの生殖器を斬り落としたときに、その傷口からほとばしった血液が大地の女神ガイアに滴り、そうして生まれたという。メリアたちと一緒にうまれたのが、復讐の女神エリーニュスたちや巨人族ギガースたちであった。

古代ギリシアにおいて、槍の柄は一般的にトネリコの樹を用いてつくられていたという。トネリコの樹の精霊メリアたちが、血みどろでおどろおどろしい誕生神話を持っている背景には、戦争に用いられる槍の材料になっていることがあるのだろう。トネリコの樹が槍の柄として用いられるようになったことを説明する神話といえるかもしれない。

ヘーシオドスは『仕事と日』の中で、人間を五つの世代に区分しているが、3番目にうまれた青銅時代の人類たちは、このメリアたちから生まれてきたと説明している。この時代の人類は非常に荒々しく、常に争ってばかりいたが、しかし武勇には優れていたという。スタティウスもアルカディア人の祖先をメリアたちに求めている。

人間の起源を樹木に求めるというのは何だか不思議な感じがするが、いろいろな地域の神話に、そのような発想を見ることができる。北欧神話では、トネリコとニレの木から人間の男と女が生まれている。マヤの神話にも、創造神が木を彫って人間をつくっている。インドネシアにはバナナの木の実から人間が生まれたとする神話がある。

《参考文献》

  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『ギリシア・ローマ神話辞典』(著:高津春繁,岩波書店,1960年)
  • 『仕事と日』(著:ヘーシオドス,訳:松平千秋,岩波文庫,1986年)
  • 『神統記』(著:ヘシオドス,訳:廣川洋一,岩波文庫,1984年)