ザガン

[悪魔学]
 Zagan(ザガン)、Zagam(ザガム)

水をワインに、金属をコインに、愚か者を賢者に変える悪魔

ザガンはソロモン王が使役したとされる七二匹の悪霊のうちの一匹で、魔法書『レメゲトン』の第一巻「ゲーティア」にその名前が挙げられている。召喚すると、グリュプス(グリフォン)の翼1)をはやした雄ウシの姿で出現する。その後、しばらくすると人間の姿に変身するという。ザガンの能力はさながら錬金術者のようである。ワインを水に変えたり、血液や水をワインに変えたりできる。水やワインというのはキリスト教において、イエスの血液とされる大切なものである。それを操るというのだから、ザガンは不遜な悪魔である。その上、銅や銀、金などの金属から銅貨、銀貨、金貨などのコインを偽造できるという。愚かしい人間を賢者に仕立て上げることもできるというから、その錬金術の腕は凄まじい。ザガンは地獄では王であり、総統であるらしい。三三の悪霊の軍団を率いている。

メイザースとクロウリィが編纂した『レメゲトン』の「ゲーティア」より、ザガンの項目を引用してみたい。

(61.) ZAGAN. - The Sixty-first Spirit is Zagan. He is a Great King and President, appearing at first in the Form of a Bull with Gryphon’s Wings; but after a while he putteth on Human Shape. He maketh Men Witty. He can turn Wine into Water, and Blood into Wine, also Water into Wine. He can turn all Metals into Coin of the Dominion that Metal is of. He can even make Fools wise. He governeth 33 Legions of Spirits, and his Seal is this, etc.

(六一)ザガン-六一番目の悪霊はザガンである。彼は偉大なる王にして総統で、はじめはグリフォンの翼をはやした雄ウシの姿で出現する。しかししばらくして人間の姿をとる。彼は人間を利発にする。ワインを水に、血液をワインに、そして水をワインに変えることができる。彼はあらゆる金属を、その金属でできたコインに変えることもできる。彼は愚か者を賢くすることさえできる。三三の悪霊の軍団を統治しており、これが彼の紋章である。

(メイザース/クロウリィ『ソロモン王の小さな鍵』第一巻「ゲーティア」より)

ザガンはヨハン・ヴァイエルの『プセウドモナルキア・ダエモヌム(デーモン偽王国)』にも名前が登場し、ザガムという名前で紹介されている。

§47. Zagam magnus Rex & Præses: ut taurus prodit cum alis ad modum gryphi: sed assumpta hominis forma, reddit hominem ingeniosum: transmutat cuncta metallorum genera in monetas illius ditionis, & aquam in vinum, & è diverso: sanguinem quoque in oleum, & contra: & stultum in sapientem. Præest triginta tribus legionibus.

四七章.ザガムは偉大なる王にして総統である。彼はグリフォンの翼を持った雄ウシのような姿で出現するが、その後、人間の姿をとる。彼は人間を賢くする。あらゆる金属をその国の貨幣に変え、水をワインに、ワインを水に、またワインを血液に、血液をワインに変える。愚者を賢人にする。彼は三三の軍団の頭である。

(ヨハン・ヴァイエル『プセウドモナルキア・ダエモヌス(デーモン偽王国)』より)

1) ちなみにギリシア・ローマ神話に登場するグリフォン(グリュプス)はワシの翼を持っている。翼だけなので、それがワシのものでもグリフォンのものでも同じもののような気がするが、「ゲーティア」に登場する悪魔にはグリフォンの翼をはやしているものが多い。

聖書のパロディなのか?

ザガンは「ゲーティア」の中で六一番目に紹介されている悪霊だが、六〇番目に紹介されているウァプラという悪霊はライオンの翼にグリフォンの翼をはやした悪霊で、ザガンとウァプラで対になっていると考えられている。雄ウシは福音書記者の聖ルカのシンボルであり、ライオンは聖マルコのシンボルになっているため、聖書のパロディになっていると解釈されている。また、「ゲーティア」にはハーゲンティという悪霊が登場するが、この悪霊もザガンと同じようにグリフィンの翼を持った雄ウシの姿として想像され、その能力もほとんど変わらない。

《参考文献》

  • 『LESSER KEY OF SOLOMON: GOETIA』(訳:S.L. “MacGregor” Mathers,編:Aleister Crowley)
  • 『Pseudomonarchia Daemonum』(著:Johann Weyer)
  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 5 悪魔事典』(監:山北篤/佐藤俊之,新紀元社,2000年)