ウィル・オ・ザ・ウィスプ

[ヨーロッパ伝承]
 Will o’the Wisp(ウィル・オ・ザ・ウィスプ)《藁束持ちのウィリアム》【英語】
 Ignis Fatuus(イグニス・ファトゥウス)《愚かなる炎》【ラテン語】

ふらふらと飛び回り、沼地へ誘い込む火の玉?!

ウィル・オ・ザ・ウィスプはヨーロッパ伝承に登場する鬼火のこと。ラテン語で《愚かな炎》を意味するイグニス・ファトゥウス(Ignis Fatuus)と呼ばれることもある。森の中などで、ゆらゆらと青白い火の玉が飛び回っている。この火の玉を人の明かりだと勘違いして追いかけてはいけない。この光についていくと、散々、森の中を引きずり回され、最終的には沼地へ誘い込まれて溺れ死んでしまう。

このような火の玉(鬼火)に関する伝承は世界各地にあり、日本にも人魂(ヒトダマ)、つるべ火(ツルベビ)、狐火(キツネビ)、叢原火(ソウゲンビ)、陰火(インカ)など、数多くの鬼火伝承が知られている。ヨーロッパでもイギリスを中心にさまざまな鬼火伝承が知られていて、ジャック・ア・ランタン、ピクシー・ライトなどというのが知られている。その正体についてはいろいろと言われていて、妖精が光っているのだとか、死んだ人間の霊が仲間を求めているのだとか、あるいは沼地に発生したメタンガスが自然発火しているのだなどとも言われている。

鬼火伝承の正体はメタンガスか、それとも球電か?!

鬼火伝承の舞台になりやすいのはメタンガスが発生しやすい沼地である。日本の人魂もメタンガスが発生しやすい沼地や墓場などに出没することで知られている。とすると、これらの鬼火伝承の目撃証言の中には、このようなメタンガスの自然発火も存在していた可能性はあるだろう。

また、近年の学者がよく引き合いに出すのは球電説だ。球電というのは稲妻の一種で、稲妻の先から時折、電気の塊が飛び出す。これが球電というやつで、ふわふわと空中を漂って、発火物に触れると突然、大爆発を引き起こす。西洋では火の玉に屋根を吹っ飛ばされたとか、人間が焼き殺されたという怖ろしい事例もあるので、目撃された鬼火の中には球電もあったのかもしれない。

ペテロを騙し、第二の人生を歩んだウィリアムの末路

そのような鬼火伝承だが、ウィル・オ・ザ・ウィスプに関しては、特にウィリアムという人間に関する伝承が残されている。その昔、ウィリアムという性悪な男がいて、他人に恨みを買って殺されてしまったという。死後、あの世で聖ペテロに地獄行きを言い渡されたウィリアムだったが、彼は言葉巧みにペテロを騙し、生まれ変わって第二の人生を生きることになったのである。ところがウィリアムは第二の人生でも悪行三昧。結局、天国へも地獄へも行くことが叶わなくなってしまい、ウィリアムの魂は永遠に現世を彷徨い続けることになったのである。これに同情した悪魔がウィリアムに地獄の業火からほんの少しだけ炎を分け与えてやったという。この炎がウィル・オ・ザ・ウィスプとなったのである。

近年のファンタジィにおけるウィル

ウィル・オ・ザ・ウィスプは、さながら日本の人魂が墓場の回りでくるくると飛び回るように、幽霊などが現われる直前に出現することが多いという。近年のRPGなどでも、ウィル・オ・ザ・ウィスプが現われるのは不吉の予兆であり、ラスボスなどが登場する直前に配置されることが多い。こうして物語を盛り上げる役目を負っているのである。伝承ではふらふらと飛び回り、沼地へ誘い込むだけの幽霊だったウィル・オ・ザ・ウィスプだが、ゲームの世界などでは、球電説を採用しているのか、ヘタに攻撃すると電撃で反撃し、プレイヤに大火傷を負わせてくることもある。また、稀に光の精霊という扱いで登場し、パーティたちの手助けをすることもあるようだけれど、これは非常にレア・ケースかもしれない。

《参考文献》

  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『図説 幻獣辞典』(著:幻獣ドットコム,イラスト:Tomoe,幻冬舎コミックス,2008年)
  • 『モンスター・コレクション 改訂版』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1996年)
  • 『モンスター・コレクション ファンタジーRPGの世界』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1986年)