牛女(ウシオンナ)

[都市伝説]
 牛女(ウシオンナ)、六甲牛女(ロッコウウシオンナ)【日本語】

着物を着たウシ頭の女性が車やバイクを追走?!

牛女(ウシオンナ)は兵庫県の西宮や六甲山などでしばしば目撃が報告されている妖怪。着物を着た女性の姿をしているが、頭は角のはえたウシの姿をしているという。突然、姿を現わして驚かすとか、あるいは車やバイクを追いかけてくるなどの伝説が残されている。

六甲山周辺には岩にまつわる伝説がたくさんあって、祖神として古くから地元の人々の信仰を集めている。その中に、この岩を動かすと祟りがあるとされている岩があって、実際、ここに道路を建設したときにも、岩を避けて、上り線と下り線で挟むような格好になっている箇所がある。近年、この兵庫県道八二号の大沢西宮線で牛女が多く目撃された。暴走族がバイクでこの道路を走っているときに大声をあげ、岩を蹴ったという。すると突然、目の前に仁王立ちの着物姿の女が現われた。慌ててブレーキを踏む若者たち。ところがヘッドライトの先に映し出されたのはウシの頭だったという。彼らは吃驚仰天、大慌てでバイクで逃走を図ったが、牛女は四つん這いになって猛スピードで追いかけてくる。バイクは一台、また一台とコースから外れて事故っていったという。ようやく振り切ったドライバが後ろを振り返って安心し、再び前方を向いたとき、そこに牛女が立っていた。このドライバーもまたコースを大きく外れて事故にあってしまったという。この路線だけでなく、兵庫県の六甲山中でも、しばしばこのような牛女が目撃されたようだ。

牛女の誕生悲話?!

彼女には悲劇的な誕生物語がある。この都市伝説が広まっていたのは、世界大戦の末期から戦後の復興期にかけてのこと。着物姿の牛女が動物の死骸を喰っていたなどの話が広まっていた。太平洋戦争の時代、牛女はある裕福な家に生まれた娘だったという。ところが、生まれた女の子がウシのような顔をしていたため、父親は体面を考え、座敷牢に彼女を幽閉して育てたというのである。彼女は部屋の中で怨みを募らせていった。ところが神戸大空襲があった夜、町一面が焼け野原になったとき、彼女の屋敷も炎上した。その熱で運よく座敷牢の鉄の檻が抜けたのである。牛女は屋敷から抜け出したのだという。

彼女は西宮にある屠場の経営者の娘だったとして語られることもある。ウシを解体する屠場。その屠場の娘が、ウシの頭を持った異形姿でうまれてくる。何だか非常に差別的な感じもあるのだが、都市伝説は、案外、このような差別意識に根ざした中からうまれることが多いのである。牛女は女版ミーノータウロスなどと語られることもある。確かに人間の母親から生まれ、異形で、父親が体面を保つために幽閉したというストーリィはミーノータウロスの物語に類似している。この点は興味深い。

戦時中に信じられた牛女は、車やバイクを追いかけるようなものではなく、ただ姿を現わして驚かせるくらいのものだったようである。空襲で焼け野原になった西宮の市街地では、牛女が動物の死骸を食べていたなどの噂が流れたという。

「牛女は引っ越しました」?!

戦時中に盛り上がりを見せた牛女伝説だが、昭和になって再び、人々の口にのぼるようになる。さきほどの道路に出没してバイクを追いかけ回す牛女もそうだが、甲山や六甲山周辺の寺や神社にも出没するなどと噂されるようになった。特に西宮にある鷲林寺なんかはその犠牲者である。鷲林寺に牛女が出るという情報が雑誌で紹介され、連日連夜、肝試しのつもりか、大勢の野次馬たちがやってくるようになったという。一種の心霊スポットと化してしまったのである。

鷲林寺には荒神を祀る祠があるが、この祠の周りを三周すると、あろうことか牛女が出現するという投稿が週刊誌に寄せられた。荒神を祀る祠では、大抵、荒神の眷属として祠の両脇に「ウシ」を祀っているが、おそらく、このウシと「牛女」とが結びつけられてしまったのだろう。そのうちに噂には尾ひれがつき、この寺の八大龍王を奉ってある洞窟に牛女が出没するという噂まで立った。牛女見たさにやってくる野次馬が後を絶たなくなった。夜中に大声を出したり、徘徊したりと迷惑行為が続いたという。牛女の出生が語られた西宮の市街地から三キロほど北上したところに寺があったのも災いしたのかもしれないが、はた迷惑な話である。鷲林寺のウェブサイトには、当時の様子を記したページがある。寺に住み込みの住職や和尚さんたちが野次馬や迷惑行為の対応に苦慮した様子や、週刊誌やテレビ局などと揉めた様子が赤裸々に記してある。なかなか沈静化しない事態に、鷲林寺はある貼り紙を出した。「牛女は引っ越しました」というものである。ジョークのつもりだったらしいが、これが効果覿面。来訪者は激減したという。なかなかウィットに富んでいる。

牛女は件(クダン)の亜種なのか、あるいは別の妖怪か?!

ウシの妖怪に件(クダン)というのがいる。頭がウシ、身体が人間の牛女とは正反対で、頭は人間、身体はウシといった姿の妖怪で、ウシから生まれ、予言をして死ぬという。戦時中、件は神戸の牛小屋で生まれ、日本の敗戦を予言して死んだなどという噂が流れた。また、神戸では、件が「三日以内に小豆飯かおはぎを食べれば空襲を免れられる」と予言したという話も残っている。同じ兵庫県で、それも同じ戦時中に牛面人身の牛女と人面牛身の件とが噂されたことの関連を指摘する声もある。

件はウシから生まれ、牛女は人間からうまれる。姿はまるで正反対。件は人語を喋るが、牛女にはあまりそのような特徴はない。けれども、牛女が災いを予言するという話もある。件は江戸時代から伝わる古い妖怪である。牛女が件から派生した妖怪だと考える人もいる。

《参考文献》

  • 『壁女 真夜中の都市伝説』(著:松山ひろし,イースト・プレス,2004年)
  • 『最強の都市伝説』(著:並木伸一郎,経済界,2007年)
  • 『知っておきたい 世界の幽霊・妖怪・都市伝説』(監:一柳廣孝,西東社,2008年)
  • 『本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑』(著:山口敏太郎,笠倉出版社,2007年)