リベザル

[悪魔]
 Ribesal(リベザル),Rubezal(ルベザル)
〔Rübezahl(リューベツァール)《カブを数える者》【ドイツ語】〕

コラン・ド・プランシー『地獄の辞典』で紹介された奇ッ怪な姿をした山のお化け。ブルトンの不思議な挿絵が載っている。おそらくシレジア地方のリューベツァールのことで、リーゼンゲビルゲ山脈の山の守護霊的な存在。嵐を起こしたり、旅人を道に迷わせたりする。カブの数を数えている間にさらってきたお姫さまに逃げられるというエピソードで知られる。

奇ッ怪な姿をしたリーゼンゲビルゲ山のお化け

リベザルはコラン・ド・プランシー(Collin de Plancy)の『地獄の辞典( Dictionnaire Infernal)』で紹介された不思議な姿をした山のお化けだ。ポーランドとチェコの国境付近にあるリーゼンゲビルゲ山脈1)の山頂付近に棲んでいる。山頂を雲で隠したり、急に嵐を引き起こしたりして人々を困らせる。この本にはイラストが載っていて、木の枝ような尖った長い鼻にぎょろっとした目、そして顔の周りは木の葉で覆われている。胴体は樽をかぶったような感じで、右腕は蟹のハサミ、左腕は昆虫の脚のようなものがはえていて、右足は山羊のようで、左足は鳥のようである。さらに、頭にはフォークとスプーンの角のようなものが突き出している。なんとも不思議な姿である。『地獄の辞典』からプランシーの説明とブルトンの絵を引用してみよう。

ブルトンの描いたリベザル  Ribesal, spectre dont le peuple en Silésie place la demeure au sommet du Risemberg. C'est lui, dans leur idée, qui couvre subitement cette montagne de nuages et qui excite les tempêtes. C'est le même que Rubezal. Voy. ce mont.

 リベザル シレジア地方の人々の言うリーゼンゲビルゲ山脈の山頂に棲むスペクター。突然、山が雲で覆われるのは彼の仕業で、彼が嵐を引き起こすと彼らは考えた。これはルベザル(Rubesal)と同じものである。

 Rubezal, prince des gnomes, fameux chez les habitants des monts Sudètes. Il est extrêmement malin, comme tous les êtres de son espèce, et joue mille tours aux montagnards. On a écrit des volumes sur son compte; il est même le héros de quelques romans; Musœus a conté longuement ses prouesses. Et toutefois on n'a pas encore suffisamment éclairci ce qui concerne ce lutin, qui probablement est un personnage de l'ancienne mythologie slave. Il paraît encore, dit-on, dans quelque coin éloigné; mais chaque année il perd de sa renommée et de sa considération. ― C'est le même que Ribenzal.

 ルベザル ノームたちの君主で、ズデーテン山系の住人たちの間では有名なもの。ノーム族すべてがそうであるように非常に狡猾で、高地の人々にたくさんの悪戯をする。彼に関する説明はたくさん書かれていて、小説の中では主人公として扱われていることさえある。Musœus(詩人の名前?)は長い間、その武勇の数々を語った。しかしながら、誰もこのインプ(悪魔の子)について解決しなかった。これは、おそらくかつてのスラヴ神話のキャラクタである。彼は再びどこか遠い場所に現れるという。しかし毎年、彼は名声と思慮を失っている。――これはリベンザル(Ribenzal)と同じものである。

(J. Collin De Plancy『Dictionnaire Infernal』より)

プランシーはルベザル(Rubezal)に関しても説明の項を設けているので、そちらも併せて引用した。それによれば、ルベザルは地下に棲むノームたちの君主なのだという。プランシーはスラヴ神話との関係を指摘するが、それはよく分からない。

実際、シレジア地方には、リーゼンゲビルゲ山脈に棲む「リューベツァール(Rübezahl)」という山の守護霊の存在が伝わっていて、おそらくプランシーが紹介したリベザル、およびルベザルは、このリューベツァールのことであろう。ただし、リューベツァールは『地獄の辞典』で描かれるような奇ッ怪な姿をしていない。挿絵を描いたブルトンが何を参考にこの絵を描いたのかはよく分からないが、この絵のお陰で、もとの伝承とは別の進化を遂げた存在といえる。

1) リーゼンゲビルゲ(Riesengebirge)はチェコにある山脈で、ポーランドではカルコノシェ(Karkonosze)、チェコではクロコノシェ(Krkonoše)と呼ばれている。

リーゼンゲビルゲ山のお化け、リューベツァール

リューベツァールについて簡単に紹介しておきたい。リューベツァールはリーゼンゲビルゲ山脈の民間伝承に伝わる山の守護霊的存在で、一般的には小人の姿をしているとされているが、修道士だったり炭焼き人だったり、樵(きこり)や狩人だったりと、さまざまな姿をしたリューベツァールが目撃されている。リューベツァールというのは変身が上手なお化けなのかもしれない。基本的には害を与えるような存在ではないが、ウィル・オ・ザ・ウィスプなどのように旅人を道に迷わせるのが大好きなようだ。それから、彼の縄張りに侵入してきた人間に対して、突然、嵐を起こして困らせたりもする。 リューベツァール(Rübezahl)はドイツ語で《カブを数える者》という意味である。これには次のようなエピソードが知られている。 あるとき、リューベツァールは美しいお姫さまをさらうと、花嫁にしようとした。彼がお姫さまを喜ばせようと一生懸命になっていると、お姫さまは「カブが大好きだから新鮮なカブをたくさん食べたい」という。そこでリューベツァールは畑一面にカブの種を蒔いた。やがてカブが芽を出し始めると、お姫さまは今度は「何株育ったのか知りたい」という。そこでリューベツァールはせっせと数を数え始めるわけだけれど、そうしている間にお姫さまはさっさと逃げ出してしまった、というお話。なかなか間抜けなやつである。

キャロル・ローズによれば、そのまんま山脈の名前をとったリーゼンゲビルゲ(Riesengebirge)というドワーフたちも存在するらしく、山脈を歩く旅人たちにひどく怖れられていたという。何しろ、彼らは夜の間にさまざまなイタズラをして旅人を苦しめるのだ。しかし、朝日を浴びると石になってしまうらしい。北欧のドヴェルグのようなやつらだといえるが、彼らはリューベツァールを君主にしているらしい。プランシーはリベザルをノームの王さまとしているが、この伝承を下地にしているのだろう。

《参考文献》