置いてけ堀(オイテケボリ)
[日本の妖怪]
置いてけ堀〔oitekebori〕(オイテケボリ)【日本語】
置行堀
魚を釣って帰ろうとすると釣り堀から「置いてけ」という声が聞こえてくるという怪奇現象。魚を置いていかないと恐ろしい目に遭うという。
■ 「置いてけ、置いてけ」と釣り堀から……
置いてけ堀は江戸本所(現在の東京都墨田区)の七不思議のひとつ。隅田川の下流にある水路によく魚が釣れる堀があったという。あるとき、釣り人がこの水路で魚を釣っていると大漁だった。意気揚々と帰ろうとすると「置いてけ、置いてけ」という不気味な声が水の中から声が聞こえてくるではないか。姿は見えず声だけなので、その正体はよく分からない。恐ろしくなって慌てて逃げ帰ろうとするが、家に帰って魚籠(びく)を覗くといつの間にか中身は空っぽになっていたというのが一般的な物語だ。堀は錦糸町の江東楽天池の辺りにあったとか、横網の辺りにあったなどと言われている。
同様の話はあちこちに伝わっていて、足立区や台東区などにも置いてけ堀の伝承が残っている。足立区では、東武伊勢崎線堀切駅近くの池が置いてけ堀と呼ばれていて、千住の七不思議のひとつとされている。ここでは釣った魚を3匹戻せば無事に帰れるというが、1匹も返さないで帰ろうとすると葦の草原に迷い込んで帰れないとか、魚籠をひっくり返されて魚を全て取り上げられるという。
台東区では、蔵前一丁目の榊神社付近に置いてけ堀というのがあって、ここでは魚ではなく、河童の皿を釣り上げた農民の話になっていて、河童が皿を返して欲しくて「置いてけ」と言ったとあって、趣きが少し異なる。さすが河童の台東区である。
埼玉県の川越にも「置いてけ堀」の話が残されている。小畔川の堀が置いてけ掘なのだという。
山形県西置賜郡小国町にも、河原を通る釣り人に「置いてげ」と呼ぶ淵があるという。この置いてけ堀の正体はカワワラスという河童の仲間で、同族の魚を返せと叫ぶのだという。こうなってしまうとどっちらけというか、その正体が分からない方が慎ましやかで怖い感じがする。
この置いてけ堀には、いろんな派生ヴァージョンがあって、魚を置いていかないと手が伸びてきて水中に引きずり込まれて殺されてしまうという恐ろしい話まである。
《参考文献》
- 『日本妖怪大事典』(画:水木しげる,編著:村上健司,角川書店,2005年)
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Truth In Fantasy 9 幻想世界の住人たちⅣ <日本編>』(著:多田克己,新紀元社,1990年)