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ナーガ

[インド神話]
 नाग〔nāga〕(ナーガ)《蛇(コブラ)》【サンスクリット】

インド神話で上半身が人間、下半身が蛇の半神。地下界に棲む。悪魔的なものも、神もいる。各部族の王はナーガラージャと呼ばれる。

コブラ、「生命力」の象徴として崇拝される

ナーガはインドにおける「蛇」、より正確に言えば「コブラ」のことだ。コブラといえばするすると地面を這って移動し、その毒であっという間に人間を死に至らせる。シッポを切られても再生する。おそらく、インドにやってきたアーリア人たちにとって、脅威の存在の1つだったに違いない。コブラの脱皮も、彼らにとっては驚異だっただろう。古い皮を脱ぎ捨てて、若々しい姿で生まれ変わるコブラはすぐに神聖視され、古代インド人たちの「生命力」の象徴となった。コブラは冬になると姿を消すが、再び、春になって暖かくなるとどこからともなく現れる。同様にナーガも春には天に昇り、冬には大地深くに潜むと考えられ、やがて豊饒と結びついて崇拝されるようになっていった。やがてナーガは天候とも結び付けられるようになった。ナーガの王たちは雨を自由自在に降らせ、川や湖、海を守っているとも考えられた。このように、ナーガはインド人たちにとって、蛇の精霊、あるいは蛇神のような存在となっていった。

現在では、ナーガといえば上半身が人間、下半身が蛇の姿をした半人半蛇の一族をイメージする人が多いかもしれないが、古代インドでは鎌首を持ち上げた単なるコブラの姿として想像されることも多く、いくつも頭を持つものも多数、彫刻などに残されている。

ヒンドゥー教の宇宙観では、世界には7層の地下界があるという。この地下界の各層に、たくさんのナーガたちが棲んでいる。まさに蛇族、あるいは龍族といったイメージで、もちろん、悪魔的なものもいれば、神として崇拝されるものまでさまざまのナーガがいた。中には人間と結婚するものまでいたという。多くの部族があって、ナーガの王を意味するナーガラージャと呼ばれる王も多数、輩出している。

インドでは、ナーガを王朝の始祖とする神話も見られるようだ。インドの人々は今でもナーガを崇拝の対象としていて、特に南インドではそれが盛んだという。いまだにナーガの彫り物を樹木の下に置いたり、自宅の庭にナーガのための空き地を残しておくなどの風習が残っているらしい。

ナーガ、仏教世界にも取り込まれる

ヒンドゥー教のナーガ、そしてナーガラージャはその後、仏教の世界にも取り込まれ、仏典の見張りをする水の神となった。中国などでは「龍」「龍王」と訳される。有名な八大龍王なども、もともとはヒンドゥー教のナーガに起源を持っていて、ヴァースキ(和修吉)、タクシャカ(徳叉迦)などのナーガがそのまま仏教神話にも登場している。特に龍王の1人、ムチャリンダは瞑想に耽る釈迦を大嵐から守ったという。ムチャリンダはとぐろを巻いて釈迦を包み、頭を広げて雨避けになったのである。

また、大乗仏教の体系を築いたとされる歴史上のインドの僧侶ナーガールジュナ(龍樹)に関する伝説にもナーガは登場する。彼に関しては後世の資料から推察するしかないのだが、ある伝説によると、マハーナーガ(大龍菩薩)というナーガが彼をナーガの王国に連れて行ったという。そこでナーガールジュナは大乗経典を授けられたという。これは以前、ガウタマ・シッダールタ(釈迦)がナーガたちに、人間の側に受け入れる準備が整うまで預けていたものだったという。

(仏教世界での「龍」および「龍王」についてはもっと勉強して、また別の機会に詳述したいと思う)

個性豊かなナーガの王たち

ヒンドゥー教に登場するよく知られるナーガたちをいくつか紹介したい。

アナンタ(अनन्त)〔Ananta〕

ヒンドゥー教の神話では、ヴィシュヌ神が世界の創造をする。宇宙ができる前、ヴィシュヌはアナンタと呼ばれるナーガの上に横になって眠っていた。こうしてヴィシュヌが瞑想することで世界は創造されたのだ。このアナンタは1000の頭を持つナーガの王で、アナンタはヴィシュヌ神の上に頭を翳して、彼の日避けの役割もしたという。

ヴァースキ(वासुकि)〔vāsuki〕

「乳海攪拌」と呼ばれる神話にはヴァースキという名前のナーガの王が登場する。神々は不死の飲料アムリタを手に入れようとする。そこでマンダラ山を引き抜いて巨大な亀(アクーパーラ)の背中に突き立てると、ヴァースキをぐるぐるとマンダラ山の回りに巻いた。そして一方を神々が、もう一方をアスラたちが引っ張った。こうして神々は海をかき混ぜてアムリタを手に入れる。つまり、ヴァースキはかき混ぜ棒の綱の役割を果たしたわけだ。

シェーシャ(शेष)〔śeṣa〕

シェーシャもアナンタ同様、1000の頭を持つナーガの王だ。ヒンドゥー教の考える7層の地下界のさらに下にいて、1000の頭で世界を支えているという。シェーシャがあくびをすると、地震が起こる。

タクシャカ(तक्षक)〔takṣaka〕

タクシャカもナーガの王として非常に有名で、さまざまな物語に登場する。あるとき、クル族の王パリークシットは森の中で「無言の行」を行っている修行中の聖者と出会う。聖者が質問に何も返事をしないことに腹を立てた王は聖者の首に死んだ蛇を巻きつけて帰った。聖者の息子がこの事実を知り、パリークシット王に「七日以内にタクシャカの毒で死ぬ」という呪いをかけた。パリークシット王はそれを知ると、急いで湖の真ん中に宮殿をつくらせ、宮殿に閉じこもって呪いをやり過ごそうとした。けれど、タクシャカは虫に化けて果物の中に潜り込み、まんまと宮殿に入り込んだ。タクシャカは巨大な赤蛇に変身して王に襲い掛かり、咆哮をあげ、王に噛みついた。王は即死し、宮殿は炎上。タクシャカは真っ赤な一条の帯になって天空へと昇っていったという。

また、タクシャカは乞食に変身してパウシャ王の王妃のイアリングを盗もうと画策している。結局、インドラの助けを借りたバラモンのウタンカによって取り返されてしまっている。

  * * *

このように、世界の創造に関わるナーガや、世界を支えるナーガのようなものもいれば、タクシャカのように人間界で活躍するナーガもいる。タクシャカなんかは虫に変身したり、乞食に変身したりと変幻自在である。『マハーバーラタ』のようなインドの物語には、ほかにもたくさんのナーガたちが登場する。古代インド人にとって、ナーガは身近な存在だったのだろう。

《参考文献》