ミーミル
[北欧神話]
Mímir(ミーミル)【古代ノルド語】
北欧神話に登場する知恵の巨人。知恵の泉を守護していて、オージンは霊感と知恵を得るために、片目を差し出してこの水を飲んだ。捕虜としてヴァン族に送られ、首を斬られるも、オージンによって蘇生。その後も首はオージンにアドバイスを与え続けた。
■ 知恵の泉を守護する巨人
ミーミルは北欧神話に登場する巨人。世界樹ユッグドラシルの根本にある知恵の泉を守護している。この泉はミーミルの泉(Mímisbrunnr)とも呼ばれているが、この泉の水は蜜酒で、これを飲むと霊感と知恵を得られるという。ミーミルはこの泉の水を毎朝のように飲んでいたために非常に賢かったという。オージンは巨人の国を放浪している際にこの泉に立ち寄り、自らの眼を担保にこの泉の水を飲んだという。それ以来、オージンは片目の神になったのである。この出来事のあと、ミーミルはオージンにつき従って、アース族の仲間入りを果たしている。
Ein sat hon úti, / þá er inn aldni kom
yggjungr ása / ok í augu leit.
Hvers fregnið mik? / Hví freistið mín?
Allt veit ek, Óðinn, / hvar þú auga falt,
í inum mæra / Mímisbrunni.
Drekkr mjǫð Mímir / morgun hverjan
af veði Valfǫðrs. / Vituð ér enn - eða hvat?
一人で外に座っていると / 老人がやって来た
アース族の王さま(オージン)が / そして私の目の中を覗き込んだ。
私に何をお訊ねになるのか? / 何故私を試されるのか?
私はすべて知っているぞ、オージンよ、 / どこに汝は眼を隠されたのか、
あの名高い / ミーミルの泉の中だ。
ミーミルは蜜酒を飲む / 毎朝のように
戦士の父の担保から。お分かりか?
(『Vǫluspá』第28段より)
■ オージン、ミーミルの首と語る
『ユングリング・サガ』によれば、後にオージン率いるアース族は、ほかの神族であるヴァン族と戦争をすることになったという。長引く戦争を回避するために話し合いが持たれ、アース族からはヘーニルとミーミルが捕虜としてヴァン族のもとへ送られた。このときにヴァン族からアース族へ捕虜としてやってきたのが、ニョルズとフレイだ。さて、ヘーニルは実は無能な神で、ミーミルの助言がなくてはまともに政治をすることができない。それに気がついて腹を立てたヴァン族に、ミーミルの首は斬り落とされ、アース族のもとへと送り返された。オージンは薬草でミーミルの首を蘇らせたが、この首は口をきき、その後もミーミルの首はオージンにさまざまな知恵や助言を与え続けたという。
Leika Míms synir, / en mjǫtuðr kyndisk
at inu gamla / Gjallarhorni;
hátt blæss Heimdallr, / horn er á lofti,
mælir Óðinn / við Míms hǫfuð.
ミーミルの息子たちが遊び / しかし運命が始まる
古い / ギャッラルホルンで
ヘイムダッルは高々と吹く、 / 角笛を空に向かって、
オージンは語る / ミーミルの首に。
(『Vǫluspá』第46段より)
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Truth In Fantasy 6 虚空の神々』(著:健部伸明/怪兵隊,新紀元社,1990年)
- 『エッダ 古代北欧歌謡集』(訳:谷口幸男,新潮社,1973年)
- Eddukvæði Sæmundar-Edda:online text(HEIMSKRINGLAより)