グリュプス
[ギリシア・ローマ神話]
Γρύψ(グリュプス)《曲がったくちばし》【古典ギリシア語】
Gryphus(グリュプス)【ラテン語】、Griffon(グリフォン)、Griffin(グリフィン)【英語】
黄金を守護する怪鳥
グリュプスはもともとギリシア・ローマ神話に登場する怪鳥。英語のグリフィン(Griffon)、あるいはグリフォン(Griffon)の名前の方が知られているかもしれない。ワシの頭と翼、前脚をはやし、ライオンの胴体と後脚を持った姿をしていた。ギリシアの北方にあるとされたリーパイオス山脈(神話上の土地)に棲むとされた。紀元前五世紀の地誌学者ヘーロドトスは当時の言い伝えを記している。それによれば、グリュプスたちはリーパイオス山脈にある金鉱の番人なのだという。そしてその黄金を狙ってやってくるアリマスポス族と抗争を繰り広げていたという。ギリシアに黄金が流れてくるのは、アリマスポス族がグリュプスたちと戦って黄金を奪ってくるからなのだという。
また、グリュプスはゼウスやアポッローン、ネメシスなどの神々の空を駆る二輪戦車(チャリオット)を牽く姿としても描かれている。アレクサンドロス大王が八頭のグリュプスに馬車を牽かせて空を飛んだという伝説まであるようだ。
図像としてのグリュプスの起源は古く、古代メソポタミアや古代エジプトなどの文化にも登場している。紀元前三三〇〇年頃に描かれたものが最古のものとされている。古代ローマ人たちも守護の象徴として指輪などのデザインに掘り込まれている。
中世になってグリュプス(グリフォン)はキリストの死の運命と神性を象徴する聖獣となった。中世末期には旅行家たちの記録にも登場するようになる。十四世紀、ジョン・マンデヴィルの『東方旅行記』では、バクトリアにグリフォンが棲息しているとされ、通常のライオンの八倍の大きさのグリュプスが描かれている。マルコ・ポーロも『東方見聞録』の中で、アラビアの怪鳥ロックとグリフォンとを結びつけている。ロックはゾウを掴んで飛べるほどの大きさであるので、この頃のグリュプスは非常に巨大な怪物と考えられていたようだ。
ダンテやウィリアム・ブレーク、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にもグリフィンが登場している。時代を通じて、グリュプスはさまざまな美術・文学作品に顔を出す。非常に好まれた怪物といえる。
グリュプスはその均整の取れた姿から、その後、中世ヨーロッパなどで紋章などのモティーフとして用いられてきた。黄金を発見し、守護するということから「知識」の象徴として、また、百獣の王ライオン、鳥類の王ワシということから「王権」の象徴として多くの貴族や諸侯に愛用されてきた。
グリュプスとウマ?!
グリュプスの好物がウマという設定は後世に大きな影響を与えている。十六世紀のイタリアのルドヴィーコ・アリオスト(Ludovico Ariosto)による叙事詩『狂えるオルランド(Orlando Furioso)』にはグリュプスとウマとのあいのこであるヒッポグリフが登場する。これは元来、天敵同士を掛け合わせたもので、「ありえないもの」の代名詞としてうまれた存在がモンスターになった例である。もともとは古代ギリシアの詩人ウェルギリウスが『アエネーイス』の中で、「ありえないもの」の例としてグリュプスとウマの交配を挙げていた。これを実現させたのがヒッポグリフというわけで、非常に珍しい怪物ということになる。このヒッポグリフも多くの作品やゲームなどに登場する。『D&D』ではグリュプスがペーガソスの天敵とされている。ペーガソスに乗って空を駆る英雄の前にグリュプスが現われた場合、ペーガソスは半狂乱になって空を縦横無尽に逃げ回ることになる。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『シリーズ・ファンタジー百科 世界の怪物・神獣事典』(著:キャロル・ローズ,監:松村一男,原書房,2004年〔2000年〕)
- 『図説 幻獣辞典』(著:幻獣ドットコム,イラスト:Tomoe,幻冬舎コミックス,2008年)
- 『モンスター・コレクション 改訂版』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1996年)
- 『モンスター・コレクション ファンタジーRPGの世界』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1986年)