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ノーム

[ヨーロッパ伝承]
 Gnome(ノーム)

四大精霊の「土」の精霊

ノームは現代ではドワーフやノッカーなどのような土の妖精の仲間のようなイメージで扱われているが、もともとは民間伝承の産物というよりは、古い科学の産物としてうまれた。古代ギリシアで哲学者エムペドクレースは四元素説を唱えた。彼は、世界は火、水、空気、土の四大元素から構成され、愛と憎しみによって結合したり分離したりしてできていると主張したのである。この思想は長い間、ヨーロッパの科学者たちに支持されてきた。十六世紀のスイスの錬金術師パラケルスス(Paracelsus)は『妖精の書』の中で、これらの四大元素には、それぞれそれに対応する精霊が棲んでいると考えた。すなわち、火にはサラマンダー、水にはウンディーネ、空気にはシルフ、そして土にはノームというわけである。

ノームは地下に棲む老人の姿をした精霊で、地中を自由自在に泳ぐように移動でき、地下に眠る財宝を守護するとされた。ドワーフやゴブリン、ノッカーなどが地下に棲む妖精として民間伝承に登場するが、パラケルススの想像したノームがこのような妖精たちの性質を多分に含んでいるためか、次第にこれらと同じような性質の妖精になっていったものと思われる。地下に棲むほかの土の妖精たちと同様に、金銀の鉱脈を知っているという。

「gnome(ノーム)」という言葉はパラケルススの造語であるともされることもあるが、真偽はよく分かっていない。『オックスフォード英語大辞典』では《地に住むもの》という意味のギリシア語γηνόμος(ゲーノモス)に由来する語ではないかとしている。あるいはギリシア語で《知識》を意味するγνώσις(グノーシス)に由来するともされている。

童話に登場する土の小人?!

ノームはグリム童話などにも土の精霊として登場している。これを金田鬼一さんなんかは「地もぐり一寸法師」なんて邦訳していて、時代を感じる。もちろん、グリム兄弟がもともと「ノーム(gnome)」という言葉を用いていたというわけではなく、これはグリム童話の英訳版でのお話。もともとのドイツ語では「gnome(ノーム)」ではなく「Erdmänneken(エルトマネケン)」という語が用いられている。erd(エルト)は《土》、männeken(マネケン)は《小人》なので、《土の小人》とでも訳すのが適当だろう。このドイツ語を英訳したときにgnomeになった1)。まさに近代のノームは「土の小人」の訳語にピッタリのイメージだったというわけだ。

一九七七年にはオランダのヴィル・ヒュイゲン(Wil Huygen)とリーン・ポートフリート(Rien Pourtvliet)が、その名もずばり『ノーム(Gnome)』という絵本2)を出版し、これが大ベストセラーになった。非常にかわいらしい小人のようなノームが描かれていて、彼らの暮らしぶり、生態が詳細に記述されている。それによれば、ノームは十五センチメートルほどの小人で、服装は非常に派手で、赤い三角帽子をかぶって青い上着を着て、老人の姿をしているという。もちろん、子供のノームもいるが、その区別はなかなか難しいのだという。非常に長寿で、一〇〇歳くらいで親もとを離れて結婚するという。四〇〇歳くらいまでは元気に生きる。白い口ひげとあごひげが特徴で、女のノームも三五〇歳を過ぎる頃から顔に毛がはえてくるという。パラケルススが述べていたように地中を泳ぐように移動するというよりは、地中に木造の家をつくって暮らしているといったイメージで、家具も普通にある。木の実やキノコを食べるらしい。

庭先にしばしば小人の人形を飾ったりするが、あれはガーデン・ノームと呼ばれ、庭を守護するものとされている。

1) ちなみにドイツ語にはgnomという語があって、これが英語gnomeのドイツ語ヴァージョンである。

2) ただしこの本の原題は『Leven en werken van de Kabouter』というもので、カバウテル(Kabouter)という単語がノームと翻訳されている。カバウテルはオランダに伝わる地の精。オランダでは非常にポピュラなもののようだ。従って、彼らが描いたものは正確には「ノーム」ではないのかもしれないが、グリム童話の場合と同様、土の小人はノーム(gnome)として英訳され、出版された。

信仰心に篤い知恵者のノーム

ちなみに『D&D』や『ウィザードリィ』などのTRPGでは、ノームはドワーフと同じような小人の種族として描かれる。特に『ウィザードリィ』では主人公の仲間として用いることができ、ドワーフとの差異化が明確になされている。無骨なたくましいドワーフとは異なり、信仰心の篤い知恵を持った種族として描かれ、職業として「僧侶」に向いているという設定になっている。これはその後のファンタジィに大きな影響を与えたといえる。この「知恵者」というイメージがどこに由来するのかはよく分からない。もしかしたら語源のひとつとされるγνώσις(グノーシス)《知識》に由来しているのかもしれない。

《参考文献》

  • 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
  • 『シリーズ・ファンタジー百科 世界の妖精・妖怪事典』(著:キャロル・ローズ,監:松村一男,原書房,2003年〔1996年〕)
  • 『図説 幻獣辞典』(著:幻獣ドットコム,イラスト:Tomoe,幻冬舎コミックス,2008年)
  • 『モンスター・コレクション 改訂版』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1996年)
  • 『モンスター・コレクション ファンタジーRPGの世界』(著:安田均/グループSNE,富士見ドラゴンブック,1986年)
  • 『妖精事典』(編著:キャサリン・ブリッグズ,訳:平野敬一/井村君江/三宅忠明/吉田新一,冨山房,1992年〔1976年〕)