ガーゴイル

[キリスト教]
 gargouille(ガルグイユ)《喉》【フランス語】

キリスト教寺院の怪物をかたどった彫像。あるいはそれが動き出した怪物。鳥や人間、ドラゴンなどを合成したグロテスクな姿。ルーアンにはガルグイユと呼ばれるドラゴンの伝承があり、サン・ロマンによって退治されたという。やがて近代になって彫像が意志を持って動き出す怪物としてさまざまな創作に登場。

彫像、ガーゴイル?

ガーゴイルはヨーロッパのキリスト教寺院(特にゴシック建築)などの屋根や壁などに飾られるグロテスクな彫像のことである。翼の生えたドラゴンや人間、あるいは鳥などを合成したような奇っ怪な姿をした怪物をかたどった石の彫像で、悪霊を追い払う役目がある。また、信仰心の薄い人間に対する警告の役割もあって「不信心にしていると喰ってしまうぞ」という脅しになっている。だからこそ、よりグロテスクなものが好まれたのだろう。日本の鬼瓦も恐ろしい顔で周囲を睨みつけている。あれと同じような感覚だろう。

もともとは雨水を流し出す雨樋(あまどい)の吐水口になっていて、雨水は雨樋を伝ってガーゴイルの喉に集まって、クチバシの部分から地面に流れ出る仕組みになっていた。ガーゴイルという言葉も古フランス語のgargouille(ガルグイユ)に由来して、これは《喉》という意味だ。ノートルダム大聖堂のガーゴイルが有名で、この大聖堂にはたくさんのガーゴイルが壁から突き出し、また屋根の上に飾られている。

フランスの田園地帯を荒らす怪物ガーゴイル

キャロル・ローズはセーヌ河の怪物ガルグイユを紹介している。北東フランスのルーアンの伝承によれば、ガルグイユは近くを流れるセーヌ河の沼地に棲んでいるドラゴンの怪物だったという。嵐や竜巻を起こしてボートを転覆させたり、釣り人を飲み込んだり、あるいは牛や人間を沼地に引きずり込んで貪り喰ったりしたという。7世紀になって、聖職者のサン・ロマンによって退治された。サン・ロマンは磔にされた死刑囚2名を囮にしてガルガイユをおびき出すと、十字架で串刺しにしたという。そして帯を首に巻きつけて犬のようにつないで動きを封じると、ルーアンに連れて行ったという。そこでルーアンの町の人々によって殺された。それ以来、雨水を屋根から流すための怪物の形をした吐水口はガーゴイルになったという。

ガーゴイル、意志を持って動き出す

寺院の彫像だったガーゴイル。これがファンタジィ小説やゲームの世界では意志を持って動き回る怪物へと早変わりする。ディズニー映画『ノートルダムの鐘』でも、3匹のガーゴイルが登場している。 『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)』では敵として登場する。ただの飾りの石像だと思って近づくと襲いかかって来るという寸法だ。ゲームではかなり独自の発展を遂げていて、石で出来ているために通常の武器が効かないなどの設定が加えられている。

ちなみに雨樋の吐水口に怪物をあしらうという発想は古代ギリシアの時代から見られて、ヘビやライオンなど、さまざまな動物の彫像が用いられていたというので、結構古い。ちなみに、日本のシャチホコなんかも、英語圏ではガーゴイルのひとつとして紹介されるようだ。

《参考文献》