ファミリア
[その他]
Familiar(ファミリア)《身近な人,雇い人》【英語】
Familiar Spirit(ファミリア・スピリット)
使い魔。魔術師などに仕えてさまざまな仕事をする。主に小動物や低級の精霊、後世になると小悪魔などのことをされるようになった。
■ 魔術師に仕える使い魔
ファミリア、あるいはファミリア・スピリットは魔術師などに仕えてさまざまな仕事をこなす精霊や動物のことで、俗に言う「使い魔」のことだ。ラテン語のfamulus(ファミュルス)、《召使い》という言葉に由来している。もともとは魔術師たちのよきパートナーだったのだろうが、16世紀頃にキリスト教が広まって異教の魔術が魔女狩りの対象になるに至って、悪魔の類いとして貶められてしまった。それ以降「使い魔」という言葉が示しているように、小悪魔のような扱いをされている。
ファミリアといっても精霊だったり動物だったり、いろいろなものがいる。下級の精霊のようなものだけでなく、犬や猫などの小動物たちも、充分、魔術師たちにとっては使い魔になるのだ。魔女が使うファミリアの代表的な動物に犬や黒猫がいる。あるいはカラス、いたち、ガマガエル、ミミズクというのも挙げられるだろう。昆虫を使う魔女もいたようだ。実際、16世紀のドイツのアグリッパは黒犬を従えていたというし、17世紀の清教徒クロムウェルも黒犬を連れていたという。
一方、実体のない精霊のような使い魔のことは特に「アガシオン(Agation)」と呼ぶこともある。『千一夜』などに登場するランプの精のようなものがアガシオンに該当して、瓶や指輪、護符などに封印されていることが多い。そして必要があれば呼び出して使役し、また封印するのだ。後世、キリスト教にゆがめられてしまった印象はあるが、インキュバスやサキュバス、あるいはインプのような小悪魔もファミリアとして使役されたとされた。
使い魔といえば、シェイクスピアの『嵐(Tempest)』に登場する風の精霊エアリアルなんかがイメージにぴったりかもしれない。魔術師プロスペローの使い魔として嵐を起こして船を難破させたり、幻を見せたりと大忙しだった。イスラエル王国の王さまであるソロモン王も悪霊を使役したことで有名だ。青銅の壷に閉じ込めた72人の悪霊たちを自由自在に使って富を集め、立派な神殿や宮殿を建てたと伝承は伝えている。これは若干、イスラームのジンの影響があるのではないかと思う。
■ 使い魔の由来とその変貌
健部伸明は、ファミリアに関して、その由来の1つにゲルマンの魔女たちを挙げている。確かに北欧神話ではオージンはフギン、ムニンという2羽のカラスを使って世界中の情報を集めているし、ゲリ、フレキという2匹の狼を常に従えている。ゲルマンの魔術師は大抵の場合、魔女だが、魂を遊離させてあちこち訪問するらしい。その際、魔女の魂はさまざまな動物に変化する。これが動物を使役しているように見えたのではないかというのだ。
16世紀に魔女狩りが盛んになると、このような異教の魔術師(魔女)は悪魔と契約してよからぬことをする輩として弾圧されるようになる。そこで、彼女たちの使い魔は低級な悪魔へと変貌させられてしまったのである。中世の魔女といえば、ぐつぐつと鍋の中で怪しげな薬を作っていたり、呪詛を行なったり、疫病を伝染させるといったイメージがある。そして、使い魔として小動物や小悪魔に身の回りの世話をさせたり、辺りを偵察させたと考えられていたのだ。使い魔には血を分け与える必要があったとされ、身体のどこかにイボあるいはアザがあって、ここから血を吸うと考えられた。そのような箇所は痛覚が欠如しているので、魔女裁判においては重要な魔女の証となったのだ。
■ さまざまな「使い魔」たち
ファミリアは西洋由来だが、東洋でも同様の発想はあって、陰陽師によって使役される式神は「使い魔」といえるだろう。修験者も天狗を従えている。このように、世界各地の魔術師たちは何らかの「使い魔」を使っているといえる。
魔術師とファミリアの関係もいろいろある。健部伸明は大きく5つの関係に分類している。すなわち、ユダヤ教のラビとゴーレムのような「傀儡」、ソロモン王と悪霊のような「主従」、ファウスト博士とメフィストーフェレスのような「労使」、役行者に仕える前鬼・後鬼のような「師弟」、そして三蔵法師と孫悟空一行のような「友愛」だ。なるほど、孫悟空もお釈迦さまに命じられて三蔵法師に仕えている妖怪だから、使い魔と定義することもできるのかもしれない。
■ 現代の「使い魔」たち
よく少女コミックに見られるような魔法少女には動物キャラクタがついていることが多い。これは魔女と使い魔の関係の影響なのだろう。セーラームーンにはルナという黒猫がついているし、カードキャプターさくらにはケルベロスという犬が付き従っている。ファイナルファンタジーの召喚獣などは比較的大型だが、これも使い魔だろうし、ポケットモンスターのモンスターたちもモンスターボールに捕獲して、そこから呼び出して戦わせるわけだから、使い魔の類いといえるだろう。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『Truth In Fantasy 4 幻想世界の住人たちⅡ』(著:健部伸明/怪兵隊,新紀元社,1989年)