ディーナ・シー
[妖精]
Daoine Sídhe【アイルランド語】,Daoine Sìth,Daoine Sìdh【スコットランド語】
Daoine O'Sidhe(ディーナ・オ・シー) Daoine Beaga(ディーナ・ベガ)
ケルトの古い神々が次第に妖精になったもの。英雄妖精の代表的なもので、群れを踊ったり歌ったり、あるいは妖精行列と呼ばれる行進をしたりする。
■ 古き神々は零落して妖精に……
ディーナ・シーはアイルランド伝承に登場する妖精族だ。正直、よく分からないことが多い。妖精研究家の中にはディーナ・シーを、ケルトの神々であるトゥアハ・デ・ダナーンが妖精になったものと解釈しているようだ。トゥアハ・デ・ダナーンは後発でエリン(アイルランド島)にやってきたミレー族との戦いに敗れて、地上をミレー族に明け渡す。代わりに地下世界を与えられたという。キャサリン・ブリッグズ女史はディーナ・シーのことを、このトゥアハ・デ・ダナーンの勢力が衰えてフィアナ騎士団の英雄になり、さらに妖精化したものとしている。W.B.イェイツも『アイルランドの妖精譚と昔話』の中で、ディーナ・シーのことを「英雄妖精(heroic fairy)」と呼んでいて、これはさながら妖精の騎士や妖精の貴婦人といったイメージで、人間と同等の背丈を持った妖精。もともとは身体も大きく、騎士のように馬に乗って妖精行列(fairy ride)を行なったり、歌や踊りを楽しんでいたものが次第に小さくなったとしている。一方、ワイルド夫人は『アイルランドの古代伝説とまじないと迷信』の第1巻の中で、地獄に堕ちるほど悪くない堕天使の一群と解釈していて、人間が創造されるよりもずぅっと前に地上に落ちて、最初に神々になったものたちや海に落ちてしまったものたちだと説明している。
ディーナ・シーは群れをなす妖精で、しばしば宴会や踊りを楽しむところを目撃される。特にケルトのお祭りであるベルティネ祭やサウィン祭を楽しみにしているという。人間社会と同じように、王や女王がいる。病人を治したり、病を予防する力を持つことでも知られる。イェイツが言及しているように、妖精行列を行なうことでも知られている。妖精の騎士として妖精の国を守る役目を持つとも言われる。
得てしてケルトの妖精たちは気まぐれで、ときには乱暴で意地悪なこともする。ディーナ・シーもそういう側面があって、戦いを好んだり、砂嵐を起こして人間の花嫁や赤ん坊をさらったりするという。植物を胴枯れ病にして人間たちを困らせることもある。牛乳を捧げるとディーナ・シーをなだめられるという。また、身の安全を考えて「良家の方」「善い人」「小さな精霊たち」「おちびさん」などといった遠まわしな呼称を用いる。
妖精の塚や地面の下、湖の底、あるいは森の中や荒野、サンザシの木など、さまざまな場所にディーナ・シーは棲んでいる。海の底に棲んでいることもある。海に船を浮かべているときに海底から光って昇ってくるように見えるのはディーナ・シーが家に帰っていく姿だという。
《参考文献》
- 『Truth In Fantasy 事典シリーズ 2 幻想動物事典』(著:草野巧,画:シブヤユウジ,新紀元社,1997年)
- 『シリーズ・ファンタジー百科 世界の妖精・妖怪事典』(著:キャロル・ローズ,監:松村一男,原書房,2003年〔1996年〕)
- 『妖精事典』(編著:キャサリン・ブリッグズ,訳:平野敬一/井村君江/三宅忠明/吉田新一,冨山房,1992年〔1976年〕)