螭(チー)

[中国の妖怪]
 螭〔chī〕(チー)【中国語】
 螭龍〔chī-lóng〕(チー・ロン)

螭は中国の龍の一種。龍にまだ角がはえていないような存在のこと。蛇は1000年から1500年生きると龍になるという。螭はその途中の存在だろうか。

角のない龍

螭(チー)、あるいは螭龍(チー・ロン)は中国の龍の一種だ。日本では螭(ち)、あるいは螭龍(ちりゅう)として知られている。

螭を理解するために、まず中国の龍について簡単に説明しておきたい。中国の龍は西洋のドラゴンのように凶悪な存在ではなかった。中国を象徴する聖獣と言っても過言ではなく、皇帝は龍をあしらった衣服を身にまとっていた。これは皇帝を龍と同一視したためだ。文武を司る象徴として、非常にめでたい存在として、人々は龍が現れると、それを吉祥として喜んだという。非常に強力な神通力を持っていて、水神として古来より信仰されてきた。龍は天候を司る存在で風や雨、雷などを操って人々に恵みをもたらしたり、あるいは被害を及ぼしたりした。

中国では、龍はいくつかの種類があった。その1つに螭がある。螭は額に角を持たない龍のことを言う。龍から角を取った感じだ。山や沢に棲む小さな龍で、色は赤や白、あるいは蒼色のものがいる。螭はとりわけ岩や木陰などの湿った場所を好むという。そして小さな虫や動物を食べて生きている。人目に触れる場所にはあまり出没しないという。螭が湿った場所を好むのか、螭が棲む場所を湿らせるのかはよく分からないが、螭がいなくなったためにその場所から湿気がなくなったという話も残されているという。

蛇から龍へ変化する途中の存在?

一般に蛇は1000年から1500年生きると龍に変化すると言われている。その間に蛇は足を生やしたり、角を生やしたりして段々、龍に変化していくのだろう。草野巧は螭を龍の中でも幼生のような存在なのだと考えているようで、蛇から龍へと変化していく過程にある存在としている。

ほかにも中国の龍にはさまざまな種類があって、蛇に四本足がはえたような蛟(ジャオ,みずち)、蛇に角をはやしただけの虬(チゥ,こう)がいる。立派に龍になった蛇が、さらに1000年生きると翼がはえてくるという。これが応龍(イン・ロン,おうりゅう)である。草野巧によれば、蛇から龍になる間に、蛇から蛟に(手足がはえる)、蛟から螭に(少し龍らしくなる)、螭から龍に(角がはえる)、という風に変化していくのではないかと考察している。

《参考文献》