ア(五十音順)
- アーヴァンク
- アース
- アース神族 → アース
- アータル
- アーリマン → アンラ・マンユ
- アイオーン
- アイオロス
- アイギパーン
- アイテール
- アイヤッパン
- アヴァンク → アーヴァンク
- アヴランク → アーヴァンク
- 青行燈(アオアンドン)
- 青女(アオオンナ) → 青女房(アオニョウボウ)
- 青女房(アオニョウボウ)
- アガースラ
- アケローオス
- アザンク → アーヴァンク
- アスクレーピオス
- アダンク → アーヴァンク
- アバック → アーヴァンク
- アフリマン → アンラ・マンユ
- アムピスバイナ → アンフィスバエナ
- アムピトリーテー
- アルゴス
- アルプリーヒ
- アレース
- アンタイオス
- アンデッド
- アンドヴァリ
- アンフィスバエナ
- アンラ・マンユ
■ アーヴァンク
[ウェールズ伝承][ケルト神話][アーサー王伝承][未確認動物(UMA)]
Afanc(アーヴァンク)《ビーバー》【ウェールズ語】
〔Abhac=アイルランド語のabha《川》に由来する〕
アーヴァンクはウェールズ伝承に登場する水の怪物。現代では巨大なビーバーの姿をしているというのが定説になっている。これは現在のウェールズ語でafanc(アーヴァンク)が《ビーバー》を意味しているからであるが、古い伝承では姿に関しては必ずしも明確ではなく、クロコダイルのようだとか、あるいはその正体はドヴェルグ(小人)だとか水の悪魔だとかされた。もっとも有名なのは北ウェールズを流れるコンウィー川のアル・アーヴァンク湖に棲んでいるアーヴァンクの伝承で、これはジョン・リース(John Rhys)が収集した伝承の中に収められている。普段は渦の中に身を潜めているが、非常に怪力で、ときには地上に出現して鋭い爪と牙で人間を八つ裂きにするという。このアーヴァンクは乙女の膝枕でいい気持ちになって眠っているところを村人たちに捕らえられたという。また、ヨロ・モルガヌグ(Iolo Morganwg)によれば、スィオン湖に棲むアーヴァンクはイギリス全土を巻き込む大洪水を引き起こしたという。一組の男女だけが生き残り、これが現在のブリテン島の祖先になっているという。このアーヴァンクはフガダーンという神さまに遣わされた牡牛によって引き上げられて魔力の仕えない場所に連れて行かれたという。『マビノギオン』にもアザンク、あるいはアダンクという名前で登場し、英雄ペレドゥルに退治された。このアザンクは水の精霊のような存在で、王の息子を生け贄として要求し、洞窟に運ばせ、殺していた。また、バルフォグ湖にはアーサー王がアーヴァンクを退治したという伝承が残されていて、今でもそのときにアーサー王が乗っていた馬の足跡が残っているという。
■ アース
[北欧神話]
Áss(アース)、pl. Æsir(エーシル)【古ノルド語】
北欧神話において、オージンを筆頭にした神々のことをアース一族、あるいはアース神族などという。北欧神話には彼らとは別のヴァン神族と呼ばれる一派もいて、アース神族とヴァン神族とは互いに争っていた。ニョルズ、フレイ、フレイヤなどはヴァン神族である。彼らは後に和解し、アース神族からは人質としてヘーニルとミーミルを送り、代わりにヴァン神族からはニョルズとフレイ、フレイヤを受け取った。
■ アータル
[ゾロアスター教]
𐬁𐬙𐬀𐬭〔ātar〕(アータル)【アヴェスター語】
(アヴェスター語はまだ対応フォントが存在しないため、文字化けしていると思いますが、そのうち対応することでしょう)
アータルはゾロアスター教の火の精霊。拝火教とも呼ばれて、火を非常に重要視するゾロアスター教の中で、火の精霊アータルは非常に強力な精霊として位置づけられた。実際、『アヴェスター』の中でも「アフラ・マズダーの息子」として讃えられている。悪竜アズィ・ダハーカと激しく戦う善なる戦士として描かれる。稲妻とも関連づけられ、雨を呼ぶものとして、干ばつを起こす悪魔を退治したともされている。
■ アイオーン
[ギリシア・ローマ神話]
Αἰών(アイオーン)【古典ギリシア語】
アイオーンは古代ギリシアやローマなどで崇拝された時を擬人化した神さま。紀元前五世紀以降、あちこちに祭礼があった痕跡が残されている。永遠とか永劫という意味にも用いられるギリシア語であり、単純に永遠を司る神さまだったものが、次第に哲学的な意味を付加され、崇拝されるようになっていったものと考えられている。ライオンの頭、男性の身体をして全身に蛇を巻きつけた像が発見され、これがアイオーンの像であるとされているが、よく分からない点も多い。
■ アイオロス
[ギリシア・ローマ神話]
Αἴολος(アイオロス)【古典ギリシア語】
Aeolus(アエオルス)【ラテン語】
アイオロスはギリシア・ローマ神話に登場する風の支配者で、ヒッポテースの子。ポセイドーンの子だとされる別伝もある。もともとは普通の人間で六人の息子、六人の娘と一緒にアイオリア島に棲んでいた。『アイネーイス』では島の洞窟に風を封じ込め、意のままに操ったとされる。『オデュッセイア』ではオデュッセウスがイタケー島に帰国するために航海しているときに、逆風を閉じ込めることのできる革袋を彼に与えている。この皮袋は故郷に吹く西風以外の風を封じ込めることができたため、オデュッセウスは順調に航海を進めることができたとされる(ただし、後に部下がオデュッセウスが宝物を隠していると勘違いして開けてしまったため、船は再びアイオリア島に戻されてしまった!)。これらの能力から、次第にアイオロスは風の神と見なされるようになった。
■ アイギパーン
[ギリシア・ローマ神話]
Ἀιγίπαν(アイギパーン)《ヤギのパーン》【古典ギリシア語】
アイギパーンはギリシア・ローマ神話に登場する牧神パーンの別名の一つ。アイギはギリシア語で《ヤギ》のこと。上半身が人間の男性、下半身がヤギ。頭にはヤギの角がある。ゼウス神が怪物テューポーンに破れ、アキレス腱を奪われたときに、ヘルメース神と一緒にそれを取り戻した。テューポーンに追われたアイギパーンはヤギの身体に魚の尾を持つ姿に変身して逃れたという。ゼウスはアイギパーンの功績を讃え、このときの姿を山羊座にして天にあげたという。
■ アイテール
[ギリシア・ローマ神話]
Αἰθήρ(アイテール)【古典ギリシア語】
アイテールは天空の上方にある光輝く部分、すなわち上天を擬人化した神さま。古代ギリシアでは空は丸いドームのようなものだと考えられていたようだが、その上の方には明るく輝く部分があるとされた。ヘーシオドスは夜の女神ニュクスと暗闇の神エレボスとの間にうまれた子とし、昼の女神ヘーメラーの兄弟としている。父であるエレボスは地下世界の底の方に溜まっている暗闇の擬人化で、これと対になっている。特に神話はないが、しばしば天空ウーラノスと混同されている。
ちなみにアイテールはエーテルの語源になっている。神学では天界に満ちている物質のことをエーテルと呼んだ。また、化学の世界でいうエーテルというのは有機化合物の一種で、ジエチルエーテルの高い揮発性から天に帰ろうとしている物質としてエーテルと命名された。
■ アイヤッパン
[インド神話]
അയ്യപ്പന്〔ayyappan〕(アイヤッパン)【マラヤーラム語】
Ayyappan(アイヤッパン)、Hariharaputhran(ハリハラプトラ)
アイヤッパンは南インドの神さま。悪霊を払い、田畑や穀物、家畜などを守護する神さまとして、特にインド南西部のケーララ州で広く信仰されている。アイヤッパンの出生は面白い。父親はシヴァ神だが、母親は何とヴィシュヌ神であるという。というのも、その昔、不死の霊薬アムリタがアスラたちに盗まれたとき、ヴィシュヌ神は美女に化けてアスラたちを誘惑して取り返したことがあった。そのとき、シヴァは美女に化けたヴィシュヌに欲情してしまい、ヴィシュヌと交わって子供をなしたのである。そのときの子供がアイヤッパンである。ヴィシュヌの別名ハリとシヴァの別名ハラからハリハラプトラと呼ばれることもある。
ちなみにケーララ州の公用語はマラヤーラム語なので、マラヤーラム語の表記を掲載した。非常に魅力的な出生秘話を持つアイヤッパンであるが、残念ながら北インドのシヴァ信者たちは彼をシヴァの息子とは認めていないようである。
■ 青行燈(アオアンドン)
[日本伝承][妖怪]
青行燈,青行燈(アオアンドン,アオアンドウ)【日本語】
百物語の会では百の怪談話を順番に話していくが、その際、青紙を貼った行燈を百個用意して、一つの話が終わるたびにその火を消していく。最後の物語、すなわち百番目の物語が終わると当然部屋は真っ暗になるが、そのときには何か怪現象が起こるとか、あるいは妖怪が出現するとか信じられていた。それが青行燈(アオアンドン)である。青行燈の姿や性質に関する言及はほとんどないが、鳥山石燕は『今昔百鬼拾遺』の中で行燈の傍らに立つ鬼女の姿を描いている。天井から巨大な手が伸びてくるというのもある。
■ 青女房(アオニョウボウ)
[日本伝承][妖怪]
青女房(アオニョウボウ),青女(アオオンナ)【日本語】
青女房(アオニョウボウ)は青女(アオオンナ)とも言うが、荒れ果てた古い御所に棲む妖怪で、たった一人で誰かがやって来るのを待っているという。女官の姿をしているが、その眉毛はぼうぼうに伸び、お歯黒をべったりと塗っていて醜いというのに、鏡を覗き込んでは丹念に化粧を施すのである。草野巧は、隠遁して山に籠った女性が山女(ヤマオンナ)という妖怪になるという事例を引いて、青女房も山女の一種かもしれないと指摘している。
■ アガースラ
[インド神話]
अघासुर〔Aghasura〕【サンスクリット】
アガースラはインド神話に登場するアスラの一人。《悪魔アガ》という意味である。『バーガヴァタ・プラーナ』に登場する。アガースラはアガジャラという大蛇に化けるのが得意で、大蛇に化けるとぽっかりと口を開けて英雄クリシュナたちを待ち構えていた。その様がまるで洞窟のように見えたため、クリシュナの従者たちは勘違いして自らアガースラの口の中に入ってしまった。それに気がついたクリシュナは彼らを救出するとアガースラと戦い、退治したという。
■ アケローオス
[ギリシア・ローマ神話]
Ἀχελῷος(アケローオス)【古典ギリシア語】
アケローオスはギリシア最大の河川であるアケローオス河の神さま。河神オーケアノスとテーテュースの子。詩芸の女神ムーサたちとの恋愛も知られ、そのうちの一人であるメルポメネーとの間にはセイレーンたちをうんでいる。また、たくさんの泉のニュムペーたちの父親でもある。人間の上半身に雄牛の角、下半身が魚のような姿で描かれる。さまざまな姿に変身できるが、ヘーラクレースとカリュドーンの王女デイアネイラを巡って争い、角を折られてヘーラクレースに敗北した。アケローオスは豊饒の角であるアマルテイアの角を貰い受け、代わりにデイアネイラはヘーラクレースに譲ったとされる。
■ アスクレーピオス
[ギリシア・ローマ神話]
Ἀσκληπιός(アスクレーピオス)【古典ギリシア語】
アスクレーピオスはギリシア・ローマ神話に登場する医神。古い時代には人間で、ホメーロスはギリシアの軍医としてトロイアに遠征したテッサリアの人物として描かれている。ヘーシオドスやピンダロスはアポッローンと人間の娘コローニスの子としている。その他、アスクレーピオスにはさまざまな出生が伝わっている。いずれにしても、アスクレーピオスはアポッローンによって賢者ケイローンのもとに預けられ、名医になった。しかしゴルゴーンの血液を用いて死んだ人間を次々蘇生させるようになり、遂にゼウスも運命に背く技だとその力を恐れ、アスクレーピオスを雷で撃ち殺した。アポッローンはこの行為に我慢できず、ゼウスに雷を与えたとしてキュクロープスたちを殺して復讐した。
彼の崇拝の中心地はペロポネーソスのエピダウロスにあり、ここには大きな神殿があり、病人たちはここに来て眠り、治療されたという。奇蹟的治療の碑文が多く残されている。ここを中枢にして、アテーナイ、ペルガモン、ローマなどに分祠された。
アスクレーピオスのシンボルは「蛇」である。おそらく皮を脱ぐところから若返りの動物とされたのだろう。アスクレーピオスの神殿は蛇を飼っていたとされる。ゼウスに雷で撃たれたアスクレーピオスはその後、蛇使い座として天に上げられたという。
■ アムピトリーテー
[ギリシア・ローマ神話]
Ἀμφιτρίτη(アムピトリーテー)【古典ギリシア語】
アムピトリーテーはギリシア・ローマ神話に登場する海の女神で、海神ポセイドーンの后。彼女は海神ネーレウスとドーリス(オーケアニスの一人)の娘で海のニュムペー(ネーレーイス)である。海および海の怪物を支配している。ポセイドーンに求婚されたが一度は拒んだという。しかしポセイドーンからいるかを贈られ、求婚に応じたという神話が残されている。ポセイドーンはもともと大地の神だったが、この結婚により海の支配者になることができた。彼女はポセイドーンとの間にトリートーンをうんだ。
■ アルゴス
[ギリシア・ローマ神話]
Ἄργος(アルゴス)【古典ギリシア語】
アルゴスはギリシア・ローマ神話に登場する百眼巨人。身体中に百個の眼を持っていて、決して眠らないとされた。神々に命じられてアルカディアで怪物を退治したり、ペロポネーソスでエキドナを倒したりとさまざまに活躍するアルゴスがアポッロドーロスによって記述されているが、その姿のせいか、ほとんど英雄視はされていない。特にヘーラー女神の忠実な部下として知られ、イーオーの物語に登場するアルゴスが非常に有名である。あるとき、ゼウスは人間の女性イーオーを見初め、黒雲に変身して地上へ降りていった。そこをヘーラーに見つかり、慌ててゼウスはイーオーを白い牝牛の姿に変えた。ヘーラーは嫉妬からその牝牛を貰い受ける約束をすると、アルゴスに牝牛の番を命じたという。そこでゼウスはヘルメース神を遣わし、ヘルメース神はアルゴスを眠らせ、殺した。このことからヘルメースは「アルゴス殺しのヘルメース」などと呼ばれる。ヘーラーはアルゴスの死を悲しみ、百の眼を取りはずし、鳥の羽に飾ったという。それが孔雀になった。
■ アルプリーヒ
[ドイツ文学]
Albrich(アルプリーヒ)、Alberich【ドイツ語】
アルプリーヒは『ニーベルングの歌』に登場する小人の王さま。ワーグナーの『ニーベルングの指輪』ではアルベリッヒ(Alberich)として登場する。『ニーゲルングの歌』の中で、アルプリーヒはさまざまな財宝を持っているが、その一つに隠れ蓑があった。この隠れ蓑をまとうと誰からも姿が見えなくなるだけでなく、まとった人間には十二人分の力が加わるという。英雄ジーフリトはこの小人と戦って、この隠れ蓑を奪い取り、さらにアルプリーヒをジーフリトの宝物の番人にした。アルプリーヒの一族もジーフリトの配下におかれた。
『ニーベルングの指輪』に登場するアルベリッヒも基本はこのアルプリーヒがベースになっているが、若干、性質は異なる。変身が得意で、蛙や蛇などさまざまなものに姿を変えることができる。また、ライン川の水底に眠る黄金は世界を支配できるとされ、アルベリッヒはそれを奪って、指輪をつくった。この指輪をつかって彼はニーベルング族を支配していたという。
■ アレース
[ギリシア・ローマ神話]
Ἄρης(アレース)、Ἄρευς(アレウス)【古典ギリシア語】
アレースはギリシア・ローマ神話に登場する軍神で、ゼウスとヘーラーの息子。けれども、軍神とは言いつつ、どちらかと言えば、戦の荒々しさや乱暴さ、残酷さを表している神で、知的な戦を好むアテーナーとは異なり、常にならず者として描かれ、無思慮、無分別から敗北するというものが多い。トロイア戦争の際には人間であるディオメーデースに傷つけられ、斃されているし、ヘーラクレースにも敗北し、遁走している。ホメーロスはアレースを美の女神アプロディーテーの愛人として描き、アプロディーテーとの間にポボス《敗走》とデイモス《恐怖》という双子をもうけている。二人の不倫はヘーパイストスに知られ、ヘーパイストスによるベッドの仕掛けにはまり、アプロディーテーと抱き合っているところを網で捕縛されてしまい、神々のいい見世物にされてしまった。
■ アンタイオス
[ギリシア・ローマ神話]
Ἀνταῖος(アンタイオス)【古典ギリシア語】
Antaius(アンタイウス)【ラテン語】
アンタイオスはギリシア・ローマ神話に登場する怪物で、ガイアとポセイドーンの子とされる巨人。大地の子であるため、大地に脚をつけている限り不死身である。旅人を捕まえてはレスリングで挑み、相手を殺していた。殺した髑髏は父であるポセイドーンの館に飾ったという。アンタイオスは英雄ヘーラクレースにも挑戦したが、英雄に負けて殺された。アンタイオスは大地に脚がついているとどんどん強くなるため、ヘーラクレースはアンタイオスを持ち上げた状態でそのまま絞め殺したのだという。
■ アンデッド
[その他]
Undead(アンデッド)【英語】
アンデッドは「死に損ない」のこと。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』が初出だという。生命体が死んだ後も活動し続けているものを指して言う総称として用いられ、ヴァンパイアのほかにもゾンビやスケルトン、マミィや殭屍(キョンシー)などのことをひっくるめてアンデッドと呼ぶ。ファンタジー・ゲームなどの世界では、モンスターのジャンルの一つになっている。グロテスクな姿をしているものが多く、倒しても倒しても復活するとか、毒や呪い、麻痺(パラライズ)などの特殊能力を持っているなど厄介なものが多い。聖なる攻撃や光などに弱いとされることが多い。
■ アンドヴァリ
[北欧神話] Andvari(アンドヴァリ)【古ノルド語】
アンドヴァリは北欧神話に登場するドヴェルグ(小人)の一人で、地下にあるスヴァルトアールヴヘイムに棲んでいる。勝手に財産が増え続けるという黄金の指輪を持っていた。この指輪がロキ神に奪われ、アンドヴァリは指輪の持ち主に死が訪れるように呪いをかけたという。この指輪は次々と所有者を変え、この指輪を巡ってさまざまな悲劇がうまれることになる。『ニーベルングの指輪』に登場する指輪も、この黄金の指輪の伝説を元にしている。『ニーベルングの指輪』ではアルベリヒ(Alberich)という小人の王が登場し、ライン川の水底にある黄金を奪った。黄金の所有者は世界を支配できるとされ、この黄金でつくった指輪の力でニーベルング一族を支配していたが、ローゲ(ロキのこと)に指輪を奪われる。アルベリヒは指輪に呪いをかける。明らかにアルベリヒはアンドヴァリの伝承を下敷きにしている。妖精王オーベロン(Oberon)もアルベリヒがフランスで転訛したもので、このアンドヴァリ伝承が原型になっている。
■ アンフィスバエナ
[古代ローマ伝承] Amphisbaena(アンフィスバエナ)【ラテン語】 Ἀμφίσβαινα(アムピスバイナ)【古典ギリシア語】
アンフィスバエナは身体の両端に頭がついた蛇の怪物で、日本では「両頭蛇」などと呼ばれることもある。古代ローマ時代のプリニウスの『博物誌(Naturalis Historia)』ではエティオピアに棲む蛇の仲間として紹介されている。アンフィスバエナの意味するところは《両方向に進むもの》であり、プリニウスは「毒を吐くのにひとつの口では足りないかのようだ」と説明している。後代になると、コウモリのような翼を持った姿や、前脚を持った姿でヨーロッパの紋章などに描かれるようになった。しかし、こうなってしまうともはや原義の《両方向に進むもの》ではないような気もする。
余談ではあるが、学名を体系化したことで知られるリンネは、ミミズトカゲの学名にamphisbaenaを用いた。ミミズトカゲは四肢が退化してミミズのような姿になった爬虫類で、ヘビともトカゲとも別の種類に分類されているものだが、このミミズトカゲは学名の通り、前にも後ろにも進むことができる。凶暴な性質で、ときには脊椎動物を襲うこともあるというので、まさにアンフィスバエナの名前に相応しい。
■ アンラ・マンユ
[ゾロアスター教]
Angra Mainyu(Aŋra Mainyu)(アンラ・マンユ)【アヴェスター語】
Ahreman(アフレマン)【パラフヴィー語】
アンラ・マンユはゾロアスター教において邪悪を司る精霊のこと。英語ではAhriman(アフリマン、あるいはアーリマン)と呼ばれる。ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーが物質世界を創造したとき、二つの霊がうまれた。一つは真実の霊スプンタ・マンユで、もう一つは虚偽の霊アンラ・マンユである。この世に存在する邪悪や災いのような類いはすべてこの悪霊アンラ・マンユに由来すると信じられ、善霊スプンタ・マンユと悪霊アンラ・マンユと何千年にも渡って戦い続けるのである。最終的にはアフラ・マズダーが勝利し、清浄な世界が訪れるとされた。そのため、ゾロアスター教徒たちは絶えずアフラ・マズダーに与し、善行をなしてアフラ・マズダーの勝利を願うのである。
どうしてこの世界に邪悪が存在するのかという問いに対して、ゾロアスター教は次のように答えている。すなわち、最初にアフラ・マズダーは精神世界をつくったのである。全てのものは肉体を持たず、姿も形も持たなかった。アフラ・マズダーは精霊(フラワシ)たちに、さらに物質世界をつくるべきかどうか問うた。肉体が与えられたら、世界は完璧ではなくなる。邪悪が混入して、その邪悪と戦わなければならなくなる。それでも精霊たちは肉体を得ることを望んだという。そこで改めてアフラ・マズダーは物質世界を創造したのである。アフラ・マズダーの警告の通り、邪悪が姿、形を持ってアンラ・マンユとなって出現し、世界には破壊、不和、死などが訪れた。アフラ・マズダーは真実の霊スプンタ・マンユによって精霊たちを指導させ、虚偽の霊アンラ・マンユとの戦いを開始したというのである。
アンラ・マンユは悪魔であるダエーワやアエーシュマ、あるいは悪竜アズィ・ダハーカなどを率いている。ザラスシュトラ(ゾロアスター)は神にも精霊にも明確な姿、形を与えなかったため、アンラ・マンユにも決まった姿はないようだが、蛙や蛇、トカゲなどの姿で想像されることもある。